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 あなたはスポーツ観戦に3千円かけるのは高いと感じるだろうか。それとも、安いと感じるだろうか。

 10日に東京・駒沢体育館であったフェンシングの全日本選手権決勝で、昨年の約3~5倍の値がついた「SS席」(当日券3千円)を設ける新たな試みがあった。サッカーなどではプレミアシートは当たり前で、プロ野球では「時価変動制」などを導入した球団もある。スポーツのチケット代について、専門家と考えてみた。

 「こんな怖そうな顔をしていますが、実は温泉が好きで、最近は果物狩りにはまっているそうです」

フェンシング協会の挑戦

 運営スタッフの選手紹介に、参加者から笑い声があがった。フェンシング全日本選手権の決勝前に駒沢体育館の一室であったSS席限定のツアー。決勝進出選手の事前紹介や、試合前の様子が見られる「フェンシング満喫コース」だ。

 メインスタンド中央の最前列に位置するSS席は、協賛会社のTシャツや乾燥パスタがセットでつく。前売りで2460円、当日券は3千円。昨年は前売り500円、当日券が1千円だったので、大胆な値上げだ。

 値上げは、日本フェンシング協会の太田雄貴会長による全日本選手権の改革の一つだった。昨年の入場者数は1日300人ほど。いきなり1千円を超えるチケットは高いのではないか。記者が尋ねると、太田会長はきっぱりいった。

 「千円で高いと思う人は2千円でも500円でも来ない。安くてよかったっていう経験って、実はスポーツではあんまりない。逆にいかに付加価値をつけられるかが大事」

 より近くで見てもらうため、今年は初めて仮設スタンドも導入。昨年の5倍近い1600人の観客が入った。LED照明を使った演出なども取り入れた。太田会長は「ビジネスとしてちゃんと成立させたいと思った」と振り返る。

 スポーツビジネスの発想は日本でも浸透し、チケットの「プレミア化」は各競技で進んでいる。

バドミントンやフィギュアは

 バドミントンのダイハツヨネックスオープンでは、記念品付きのプレミアシートを1万円で販売し、逆に子どものスタンド席は500円と安い。フィギュアスケートの全日本選手権でもアリーナSS席1万8千円~スタンドA席1万円と4段階の席を設けている。

 Jリーグの観戦者調査に長年関わる筑波大体育系の仲澤眞准教授は「フェンシングの今回の取り組みは注目を集め、興味を喚起するプロモーション効果があったのでは」とみる。

 協会は今回、フェイスブックやツイッターなどのSNSで情報を呼びかけ、太田会長自ら営業に回った。チケットの値上げ自体の効果は「はかれない」というが、そうした活動や、チケットの「プレミア化」という名称自体が一つの宣伝効果になった可能性はあるという。

ビジネス化進むプロ野球

 プロ野球では、さらにビジネス化が進む。楽天は今季から球界で初めてチケットの「時価変動制」を導入。米国では「ダイナミックプライシング」と呼ばれる仕組みで、記録や優勝がかかった試合など注目度の高い試合の単価を上げ、天気が悪い日などの試合の単価を下げる試みだ。

 仲澤准教授は「ダイナミックプライシングのように価格への感受性を高める手法は、トータルにはマイナスに働く。スポーツビジネスは空いているときには値段を下げ、混んでいるときに値段を上げる都心部ビジネスホテルの稼働率調整のようなものとは一線を画すべきだ」という。

 それはなぜか。「ファンは単なるサービスの受け手ではない。スポーツのよりよい時空間をともに創り出していく存在であり、文化の担い手である」というのが仲澤准教授の意見だ。

 かつては試合に負け、「カネ返せ!」と叫ぶファンも多かったが、今は減った。安いから見に行く、高いから行かないではなく、そのスポーツ自体の楽しみ方を知ったファンをいかに増やせるかが鍵になりそうだ。(照屋健)