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 大半の運転者がルールを守らないとき、どうすべきか。警察の取り締まり強化を求める声が多く寄せられました。取り締まりは、ここ10年で倍増しています。それでも事故はなくなりません。交通心理学の専門家は、背景にある日本人の振る舞いや、道路をめぐる欧米との意識の違いを指摘します。寄せられた提言などとともに紹介します。

言い訳せず まず停止

 アンケートには、道交法の原点に立って考えるべきだという意見が多く寄せられました。その一部です。

●「道路交通法は我々の社会生活の安全を担保する社会ルールだと思っています。横断歩道に歩行者、自転車がいるときは渡らせなければならない、という道交法第38条の他、交通弱者である歩行者の安全を守るという社会ルールは義務教育で教え、PTAで教え、自治会で教え、学ばなければならないと思っています」(千葉県・60代男性)

●「横断歩道に立っていてもほぼ止まらないため、手を挙げるようにしています。歩行者も渡りたいのかの意思表示が必要ですね」(愛知県・50代男性)

●「警察が取り締まりを徹底すべきです」(秋田県・70代男性)

●「諸外国の郊外など、横断歩道に立っていれば渡りたいんだとすぐに判断が出来ると思いますが、狭い煩雑な日本の街中などただ単に立っているのか渡りたいのかが不明な場合が多々あります。私が歩行者の場合には積極的に手を上げて渡りたいとの意思表示をしています。そうすると左右両方の車両の運転手にも分かりやすく、すぐに止まってくれます」(神奈川県・60代男性)

●「自動車は一時停止できる構えで横断歩道に接近するべきなのに、そのように実行している運転手はほとんどいない。『歩行者が横断する気か分からない』という言い訳があるけれども、分からないならばいったん停止してみてはどうか。それが運転する上での安全配慮というものだろう。『そんなことやってられない』というのがドライバーの本音だと思うが?」(東京都・50代男性)

●「人と車が衝突したら100%人が負けるわけで、そういう力関係のもとで車の不法行為がまかり通ってしまっている。もはやマナーに期待はできない。どんどん取り締まって罰金を科すべきである」(東京都・60代男性)

●「『歩行者が待っていてくれるだろう』という運転手が多すぎる。信号なし横断歩道では、横断しようとする人がいれば一時停止、いるかどうか分からない時は徐行ですから(道交法38)、直進車と横断者の事故は本来、起こりえないはずなんです。即効性のある解決策は、信号なし横断歩道の手前にバンプをつけることです。そうすれば、どんな車も速度を落とさざるをえませんし、減速したのでそのまま止まって歩行者を優先するようになると思います。あとは取り締まり強化しかありません」(東京都・40代女性)

「弱者に冷たい」背景に

 日本人や日本の社会についての意見もありました。

●「やはりこれは『他の人も止まらないから』という日本人の横並び意識からきていると思う。シートベルトや一時停止、酒気帯びなど、日本の交通ルールは警察が厳しい取り締まりをしだしてから守る人が増え始め、ある一定の割合以上になると急にほとんどの人が守るようになる傾向にあると思う。明らかに歩行者優先の横断歩道で事故が頻発しない限りは警察も取り締まりを強化しないのかもしれない」(京都府・50代男性)

●「日本は車に限らずだいたい強者優先の社会で、弱者は我慢せよ、と冷たい。それが車優先にも出ているのでは。横断歩道で渡ろうと、運転者の目をじっと見ていてもほとんど無視され止まってくれません。ちなみに歩道を走る自転車も、歩行者を押しのけるように走っていくのが多いです」(東京都・40代女性)

●「車の流れに乗らない方が危険というのをよく聞くが、ただの言い訳に過ぎない。『赤信号、みんなで渡れば怖くない』とほとんど変わらない。それで法律違反が許されるならホントに警察はいらない。歩行者優先を徹底しないと何よりも大切な命を守ることが出来ません」(埼玉県・50代男性)

●「日本人は、一律で皆が守る決まりやマナーはきちんと守る。例えば、駅のホームで並んで電車を待つとか。皆がやってるから自分も、という感じで。でも、その都度臨機応変に自分で決めなければならず、かつ何かしらの損を伴うものは守らない。電車内でお年寄りに席を譲るとか。横断歩道でも、皆止まってないし、急いでるし、自分だけ止まるのは損だと思っている」(神奈川県・50代女性)

●「仕事柄あちこちの国を旅して、車を運転しています。欧州の国々では、さすが自動車発祥の文化を持つからか、自己責任で周囲をよく見て運転するドライバーが多いと思います。そして何よりも印象的なのは、信号機が少なく一時停止の交差点が多いことです。そうなると、横断歩道も含めて状況をよく注視しなければなりません。それに引き換え、我が国では信号機の数のなんと多いこと。信号機さえ守れば…… の意識が生まれてしまうのも納得です。自動車とはきわめて個人主義的な乗り物、乗り手の責任で走らせるもののはずなのですが、信号機や追い越し禁止区間の多さなど、“お上”にしたがっていれば良い文化ができてしまったのが根本原因です」(東京都・70代男性)

「歩行者妨害」違反、10年前の2倍 警察庁は取り締まり強化

 横断歩道では歩行者が安心して渡れるよう、ドライバーが確実に一時停止をすることが最も重要だ――この認識のもと、警察庁は取り締まりの徹底とドライバーへの啓発を推進するよう全国の警察を指導しています。

 横断歩道は、全国に114万6201本あります(今年3月現在)。うち、信号機のないものは半数以上の60万6201本。信号機を設けるには、事前に対象となる場所の交通量や交通事故の発生状況などを調査・分析。信号機に代わる効果的な対策があるかどうかを考慮したうえ、必要性の高い場所を選んでいるといいます。

 道路交通法は人が横断歩道を渡っていたり、渡ろうとしたりする時、ドライバーは一時停止しなければならないと規定しています。警察は「横断歩行者妨害」違反として取り締まります。違反すると、2点となり、普通乗用車だと9千円の反則金が科されます。

 道交法違反全体の取り締まり件数が減少傾向にあるなか、「横断歩行者妨害」違反の件数は増加傾向にあります。昨年1年間の取り締まりは約11万1千件と10年前に比べて2倍近くになっています。

 取り締まり強化の一方で、横断歩道での交通事故は後を絶ちません。昨年1年間の歩行者と車両の交通事故は5万1551件で、10年前より約30%減りました。このうち信号機のない横断歩道での人身事故は4694件で、10年前の15%減にとどまっています。

 警察庁の担当者は「横断歩道で人が渡ろうとしているのに止まらないのはマナー違反ではなく法令違反。厳しく取り締まるとともに、免許更新時の講習などで教育を行っていく」としています。(浦野直樹)

車優先の意識 変えよう

 なぜ止まらないのか、どうしたら止まるのか。交通心理学が専門の松浦常夫・実践女子大学教授に聞きました。

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 横断歩道を渡ろうとする歩行者がいるのに止まらないのは、明確な道路交通法違反です。ルールを守るはずの日本人が法律を無視した運転をして平気なのは不思議です。

 心理学では、守るべきルールを「命令的規範」、実際にみんながとっている行動を「記述的規範」といいます。日本人は後者を大事にする傾向があります。信号機のない横断歩道の場合、車は「止まらない」が記述的規範になっています。

 背景に、道路は車優先という意識があります。欧米には、車も歩行者も、自転車も交通参加者として同じ権利があるという意識が根付いています。日本もこの意識に変えていかなければなりません。

 一つには、街なかで車のスピードを抑えるようにすること。以前と比べればずいぶんスローになっていますが、より歩行者らに配慮するようにするのです。スピードが出ていなければ、横断歩道で止まる心理的抵抗も低くなります。

 デジタルアンケートの提案にあったように、横断歩道を目立たせることは、歩行者が使う道路という意味合いを強めます。それには、標識をはっきりさせることも有効です。内閣府が2016年11月に行った世論調査では、信号機のない横断歩道を何で判断するかを聞いています。「横断歩道自体」が69・5%、「待っている歩行者」が50・8%、「道路標識」が47・1%、「ひし形の道路標示」が23・2%でした(複数回答可)。歩行者がいるかで判断するのではなく、横断歩道がある場所では原則が基本です。

 飲酒運転が減ったのは、厳罰化のほか社会的関心の高まりもあったからです。横断歩道の場合、止まらない車をしらみつぶしに取り締まるのも、全ての横断歩道に信号機をつけるのも現実的ではありません。止まる重要性を改めて知らしめることができれば、それが記述的規範に変わっていきます。

 歩行者が巻き込まれた5万件余りの事故のうち、信号機のない横断歩道で起きたのは1割弱。車が止まれば、この数は確実に、劇的に減ります。(聞き手・村上研志)

     ◇

 これほど多くの人が「横断歩道で止まらない車」にストレスを感じているとは。ルールは明確、でも現実には守られていない。ドライバーからは「止まらない言い訳」がいくつも挙がりました。では、5千件近い事故が起き続ける現実を変えるにはどうしたらいいのでしょうか。やはり車本位の思考、運転席からの発想を改めるしかないと思います。ドライバーも車を離れれば、「止まらない車」の犠牲になりかねない歩行者です。横断歩道で戸惑う歩行者の気持ちになることはできるはずですから。(中島鉄郎)

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