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「トランプ王国」熱狂のあと ラストベルトに住んでみた:8

 「東京ってどんなとこ? でっかい?」

 「ニューヨークに住んでるって聞いたけど、ほんとなの?」

 「最近はどこに行って、どんな記事を書いたの?」

 オハイオ州トランブル郡で暮らすジョーイ・ジョーンズ(18)はいつもは控えめで物静かだが、実は好奇心の強い高校生だ。取材先の次女(18)と交際しているため、大統領選の期間中に何度も顔を合わせ、そのたびに質問してきた。

 趣味は読書。アメリカの外の世界にも関心が強い。日本のことだけでなく、私が国連担当記者としてアフリカの南スーダンやコンゴ民主共和国に出張した話をすると、「アフリカに行った人に初めて出会った」と身を乗り出し、私の話を興味津々で聞いていた。後にも先にも、この地域でアフリカの話を楽しんでくれたのはジョーイぐらいだ。

 そんな彼が昨年5月、公立高校を卒業した。もう一人前だ。これを機に取材させてもらうことにした。卒業式にも同行した。

 2016年の大統領選でトランプが連勝したラストベルト(さびついた工業地帯)。「ミドルクラスから転落しそうだ」「アメリカンドリームの達成が難しくなった」。そんな声を多く聞いた地域で、今から社会に出る高校生は何を思うのだろうか。

願書20通に返事なし

 卒業式を目前に控え、ジョーイは不安を抱えていた。仕事が見つからないのだ。家庭の事情が「数時間では語り尽くせないほど複雑」(ジョーイの兄、アイザックの発言)で、親からの経済的な支援を一切期待できない。

 「願書をたくさん出したけど一本も電話がかかってこない。少なくとも20通は出したってのに」

 車のキーをいじりながら、自分の何が悪かったんだろうといった表情でつぶやいた。「こうなったら軍隊に行こうかなと考え始めたところ。でも、いつか進学もしたい。軍隊と大学。これが選択肢かな」

 街を離れる覚悟はあるのか、と聞いてみた。2人きりのインタビューだったので聞けた質問だ。街を離れることは、別れを意味するので、第三者の前では気軽には聞けない。特に交際相手の次女の前では。

 「わからないなあ、このエリアが好きだし、人がいいよ、コミュニティーがいい。友達も多いし」

 そう答えた後に、こうも言う。

 「でも世界をもっと見てみたいな、とも思う。ここを出てさ、旅行なんかもしてみたい。例えば、この州を出て、この国のほかの場所にも行ってみたい。それにこの国の外も見たい。ヨーロッパとかさ」

 「軍隊に入れば、この街から離れることになる。最低でも数年は(戻ってくるまでに)かかるだろう。大学に進学しても、街を離れることになるし、授業料も払わないといけない。そうなると、やっぱりここで仕事を見つけて暮らすのがいいのかな」

 テンポの良い会話にはならない。行ったり来たり。ジョーイは迷っていた。軍隊にも進学にも興味あるが、決断まではできていない。とりあえずは地元に残って仕事をする。そんなわけで卒業後の職を探し始めていた。

両手を動かしてやる仕事

 ジョーイは、高校在学中からいろんなバイトをやった。生活費を稼ぐためだ。量販店ウォルマートでは土や石など園芸商品をトラックから荷下ろしするバイトで、放課後に5~6時間働いて2週間ごとに約600ドル(6万6千円)をもらった。

 これまでのバイトで一番気に入ったのは、大通り沿いにあるタイヤ店だ。高校の先生の後押しもあって希望がかなった。「働いている人たちがカッコイイんだ。タイヤ交換したり、車の故障を直したりするスキルを持っている。いろんなやり方を教わったし、あんな風にスキルを身につけたいな。自分も両手を動かしてやる仕事(Hands―on job)が向いていると思う」

 地方を取材していて、よく耳にする言葉が「ハンズオン」という言葉。両手を動かしてやる仕事ぐらいの意味だが、共通の理解としては、わざわざ大学を出なくても、少しずつ経験を積むことで素人にはできないことを達成できるようになる仕事というニュアンスがあるように感じる。成果が見える仕事というニュアンスもある。端的に言えば、「借金して大学を出なくても、将来食べていけそうな仕事」。

 具体的には、大工や調理師、配管工、溶接工、ヘアスタイリストなどで、高学年になると職業訓練をするコースを選べる公立高校もある。

 ジョーイにとっての「ハンズオン」の仕事の代表格は、自動車のメカニック(技術者)のようだ。しかし、実際にタイヤ店に就職しようとしたが、希望者が多くて採用されなかったという。仕方なく、ファストフード店も含めて20件以上の願書を送ったが、一つも返事をもらえていない。同級生も似た状況にあるようだ。

 「みんな探しているけど、仮に見つかってもコーヒー店やファストフード店でさ、(生涯)ずっとやる仕事って感じではない。この辺りで給料が良いのは鉄工所や建設業。20歳代後半の友人には鉄工所で働いている人もいるけど、オレの同級生で鉄工所の働き口を見つけた人はいない。高卒後にすぐに給料の良い職場で働けるのはツテ(コネクション)のある人だけだよ」

 自分には縁がない。そんな態度で話した後、こう続けた。

 「いや、僕にもツテはあるんだ…

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