【動画】石田直裕五段に聞く将棋棋士への道=戸田拓撮影
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 中学生棋士、藤井聡太四段(15)の活躍に刺激されて、子どもたちの間で将棋がブームです。強くなると「プロになりたい」という夢を抱く子もいるでしょう。もし、自分の子どもが「プロになりたい」と言い出したらどうしますか? 助力は惜しまないが、自分の考えを押しつけることはしない――。そんな両親に見守られ、プロの座を勝ち取った棋士とその母親に話を聞きました。

 2012年9月、石田直裕(なおひろ)五段(29)はプロの座をかけて、最終関門「三段リーグ戦」の最終戦に臨んでいた。必死の思いで勝利をもぎとり、競り合っていた相手が負けて、33人中2位が確定。23歳という遅咲きでの四段昇段(プロ入り)が決まった。

 北海道名寄市出身。小学5年の時に学校で将棋がはやり、友達に勝つために地元の人に習い始めた。後にプロになる人の中では極めて遅いスタートだ。大人に勝つのが楽しくてのめり込み、中学1年の時、養成機関「奨励会」の試験を東京で受け、合格。「試験を受ける前の実績は、道内の子ども大会で8強入りした程度。まだ実力不足でしたが、伸び伸び指せたのが良かった」と合格できた理由を振り返る。

 しかし、石田さんも家族も、肝心なことを知らなかった。奨励会員は例会での対局に勝って昇級、昇段していく。つまり、例会のため月2回、北海道から東京に通わなければならないのだ。

 母の寿子(ひさこ)さん(61)はこう振り返る。「本人が『試験を受けたい』と言うので、観光気分で東京に行ったんです。周りの受験生は子ども大会の優勝経験者ばかりで、驚きました。月に2回の例会があることは、受かってから知りました」

 生活は一変した。例会の前日、中学校を早退して2時間かけて車で旭川空港に向かい、飛行機で東京へ。例会後は旭川行きの最終便に間に合わないため、新千歳空港へ。新千歳から名寄までは4時間かかった。

 送り迎えをしてくれたのは、自衛官だった父秀一(ひでかず)さん(63)と寿子さん。2人とも将棋は素人だったが、一人息子を応援し続けた。寿子さんは「『大変ですね』とよく言われましたが、あまりそうは感じませんでした。東京に行って帰ってくることだけでも、本人にとっていい経験になると思っていたので」と話す。

 石田さんは当初、なかなか勝てず、中学2年の時には入会時の6級から7級に降級する試練も味わった。それでも努力を続け、7級から6級に、そして5級にと昇級。中学卒業後は寿子さんと2人で上京し、都内の高校に進学した。将棋に打ち込むためだった。

 高校3年の時には二段になっていた。四段まで「あと二つ」だが、ここからが簡単ではない。

 寿子さんは「プロになれる保証はないので、大学には行って欲しいな、と思っていました。大学を出ていれば、どこかに就職できるだろう、と」。数学が得意だった石田さんも自ら進学を志し、自己推薦で中央大理工学部数学科を受験し、合格。寿子さんは名寄に戻り、石田さんは一人暮らしを始めた。

 大学2年の時、三段に上がった。三段リーグ戦は、半年かけて18局を戦い、上位2人が四段になれる。初参加の時は9勝9敗。プロの先輩に将棋を教わるなどして腕を磨いたが、成績はなかなか上向かなかった。大学4年になると、周囲の就職活動は本格化。「本当にプロになれるのかな」。焦りが募った。

 寿子さんも心配だったが、石田さんの自主性に任せた。「『名寄に帰って就職する道もあるよ』と言ったことはあります。地元の人たちにも期待されていたので、『もう引き返せない』とプレッシャーがかかっているかもしれないと思ったからです。棋士を目指すのを『やめてもいいよ』とは言いましたが、『やめなさい』とは言いませんでした」

 大学を卒業した翌年に迎えた8回目のリーグ挑戦で夢をつかんだ。「四段に上がったとわかった瞬間は信じられなかった」。吉報を電話で受けた母も「今回もダメかと思っていた。信じられないような気持ちだった」。親子が口をそろえて「信じられない」と表現するほど、劇的な幕切れだった。

 棋士になって5年が経った。若手棋士が参加する「加古川青流戦」で優勝するなどの実績もあげたが、満足はしていない。「棋士は30歳手前がピーク。ここ数年が勝負。(名人戦につながる)順位戦で上のクラスに昇級したい」。そして、こう話す。「両親の支えがなかったら、プロは目指せなかった。感謝してもしきれない」。自分に子どもが生まれたら、夢に向かう取り組みを精いっぱい応援するつもりだ。(村瀬信也

 石田さんとは対照的に、奨励会…

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