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 江戸屋敷へ五万両の宝の壺(つぼ)を運ぶ、老いた侍。お供の娘役は歌手のジュディ・オングさん。その壺を狙うザ・ドリフターズの一行――。そんな、一見たわいないが実は貴重な、お笑いコントの台本が見つかった。東京都杉並区の旧杉並公会堂から一度だけ、1970年8月8日に公開生放送されたTBS系列のバラエティー番組「8時だヨ!全員集合」の台本だ。同区による企画展に際して資料を探し回ったものの見つからず、この回の放送内容が不明なままだったが、企画展の記事を見た熱心なコレクターの男性が自ら持参した。

 「8時だヨ!全員集合」は、ザ・ドリフターズが主役を務め、最高視聴率50%超を記録したお化け番組。毎週土曜日午後8時から放送されたほとんどの回が、各地の公会堂などからの生放送だった。

持ち込まれた幻の台本

 昨年12月までの約2カ月間、同区の区立郷土博物館分館で番組の企画展を開催。旧杉並公会堂での公演を中心に、当時の舞台装置の設計図やリハーサルの風景を収めた写真などの展示資料をそろえた。しかし、肝心のコントのあらすじや演出、出演者などの情報は、担当者がいくら調べても分からずじまいだった。そもそも、当時の放送テープが高価だったため再利用されるなどして、きちんとした映像が残っていない。メンバーの仲本工事さんにも会いに行ったが、資料はなく、その放送回の記憶もおぼろげだったという。やむなく、開催期間中も会場には「情報提供のご協力お願いいたします!!」と書いたパネルを掲示し、情報収集に努めていた。

 そんな状況を記事にまとめて配信したのが昨年11月30日。その記事が名古屋市在住のコレクター、加藤武さん(47)の目に止まった。この放送と同じ年に生まれた加藤さんは、初期の放送の台本はほとんど収集しているといい、その中に含まれていた1970年8月8日の台本を、会期終了間際に自ら同館に持ち込んだ。

 その台本によると、老いた侍役はテレビドラマ「月光仮面」の主役で知られる大瀬康一さん。ジュディさんと一緒に江戸に壺を運ぶ途中、侍が体調を崩して宿屋で休憩する。一方で、ドリフターズ一行は、お伊勢参りに向かう途中で路銀がなくなり、空腹でふらふらに。高価な壺を2人が運んでいることを知ったドリフ一行は、隣の部屋に陣取り、あの手この手で盗み出そうと試みる。しかし、庭石に化ければ、歌手の梓みちよさん演じる女中にタワシで擦られ髪の毛をむしられ、床下を進めば、行き着いた先の便器から顔を出して殺虫剤を吹き付けられ、屋根裏に上がれば押し合いになり落っこちる。着物は脱げ、あげくには侍に見つかり逃げまわっての大騒ぎとなる。

 企画展を担当した小野正彦さん(59)は、「入手していた舞台の設計図から、床下の通路や屋根裏の穴は分かっていたが、ストーリーを知ることでやっとパズルが完成した。ドリフの台本は緻密(ちみつ)に作られているので、読むだけで当時の絵が頭に浮かんでくるようだ」と感心する。

「一回一回が真剣勝負」だった

 さらに、この放送回の全容に迫ろうとする担当者たちの執念は、ドリフのメンバー本人までも刺激した。

 記事で企画展を知った高木ブーさんは、「自宅に映像もあるはずなんだけど、2千本以上あって発見できなかった」ため、12月2日の閉館1時間前に、番組の10周年記念で作られたパネル時計を携えて会場を訪れた。その日は多くの来場者でにぎわっていたが、高木さんは笑顔でファンと交流、バンド演奏の背景を再現したパネル前で写真撮影にも応じていたという。

 高木さんは「舞台の設計図、パースなどをあらためて拝見して、自分たちがけがをしないよう、綿密に設計されていたことをあらためて実感しました。遠方から来てくれた皆さんにもたくさんお会いしました。番組が終わって、ずいぶん時間もたっていますが、今でもこうやって『全員集合』に興味を持ってくれて、本当にうれしい限り」と感慨深げなコメントを寄せた。

 番組放送当時については、「毎週が生放送だったので、一回一回が真剣勝負。失敗は許されない。失敗したら、けがをするかもしれない、そんな緊張感の中で出演者、スタッフ、関係者が身を置いていました。人生の中であれだけ集中して、803回生放送をやれたことは本当に貴重な時間だったと思います」と、コメントの中で振り返った。

 テレビ黄金期のまっただ中にいた当事者ゆえの、率直だが迫力のある言葉が印象に残った。(神沢和敬)