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 哲学者・鷲田清一さんが朝日新聞の1面に連載中のコラム「折々のことば」が、1千回を迎えました。心に響く言葉をめぐって日々続けられる思索を、どう読んでいるか。新聞でまず目を通すという俳優の石田ひかりさんと、自著から「ことば」が選ばれたミュージシャンの後藤正文さんにお話をうかがいました。

俳優・石田ひかりさん、切り抜いて娘に

 毎朝5時に起きて娘2人のお弁当を作り、6時半に送り出します。新聞をとりにいくのはそれから。ぱっと開いて、まず「折々のことば」を読みます。不思議とハッとする言葉に出会うんです。その日の自分に必要な言葉が書いてあることが多いんです。

 大切な言葉は「日めくり手帖(てちょう)」にファイルしています。例えばさかなクンのお母さんの「あの子は魚と絵が好きだからそれでいいんです」(2016年9月7日)。親の鑑(かがみ)ですよね。全部を肯定して受け入れるって素晴らしい。さかなクンがタコに興味を持った時、お母さんは毎日毎日魚屋さんに行ってタコを1匹買ってきて、料理されたそうです。私なんか、あの時ああしてあげればよかったと後悔することばかりです。

 娘は中1と中2。お年頃なので、「折々のことば」を「これ読んで」と見せても絶対読んでくれません。だから切り抜いて、お手洗いの壁に貼っているんです。一人でゆっくりできる場所なので。感想を言ったりはしませんが、やりとりの中でその言葉が出てきたことがあって、ああ読んでいるんだって思いました。

 一番感動するのは、言葉を見つけてくるアンテナの広さ。昔の偉人からいまを生きる普通の人まで。短い記事ですから、筆者ご本人の言葉は少ないのに、気付きがあります。

 「言葉には力があります。だからこそ、穏やかに話す人になりましょう」(16年9月11日)もそう。手話通訳をされる牧師さんの言葉ですから、穏やかに話すって手話にもあるんだろうなとか、伝えるお仕事をされているからこそ感じたんだろうなとか、いろんなことを考えました。

 この連載は、まずどなたかの言葉が必要で、大変だと思います。でも毎朝、私のように救われたり励まされたりする方がたくさんいるはず。お体に気をつけて、長く続けていただきたいです。

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 いしだ・ひかり 1972年生まれ。中2で芸能界へ。主演作は映画「ふたり」やドラマ「ひらり」「あすなろ白書」など。2月18日放送のドラマ「しんがん~警視庁お宝捜査」(テレビ朝日系)に出演。

ミュージシャン・後藤正文さん「静かにこの一角が」

 「折々のことば」は最近ツイッターで読むことが多いです。公式アカウントが毎朝ツイートしてくれるので接しやすいし、人にも紹介しやすい。特に気に入ったらリツイートします。

 「わかりやすさというのは、親切なように見えて、実は非常に不親切なことなのかもしれません」(17年5月29日)もそう。すごくわかります。僕もものをつくる人間なので。すごく響く、売れるということにかかわる部分でもありますが、ただ言葉をひらいていく、表現を砕いていくことが必ずしも音楽的な美しさにはつながらない。その難しさに言及している深い言葉だと思います。

 自分の言葉も載りました。「俺から言わせれば、日々の生活のなかで何を買うのかということも十分に政治的だ」(16年10月24日)。驚きましたね。えっ!みたいな。僕の文章のまで読んで下さるって、一体どれほどの読書量なのか。感動的でした。

 表現と政治や社会を分ける人が多いですが、切り離せるものではないと思う。普段どう暮らして、何を感じて、どうやって生きているかっていうことが全て僕の表現に関係している。何を選ぶのかということがすごく社会を変えるんだよ、ともよく言っていたので、そこをびしっと拾っていただいたのかなと感じます。

 鷲田さんの文はトーンが一定。ある視点に腰をすえて社会を見ながら、そこに入ってきた言葉をとらえて編み直し、静かに置いていくような。新聞って膨大な情報ですよね。しかも毎日入れ替わる。ある種の型の中を言葉たちがワーッと通り抜けていく感じ。その中で、静かに固定された「折々のことば」があるのは、落ち着くんじゃないですか。静かにこの一角が朝日新聞の温度を守っている。熱くなり過ぎず、かといって冷めもせず。千回、2千回、静かに続いていくことをお祈りしています。(聞き手・構成 星賀亨弘)

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 ごとう・まさふみ 1976年生まれ。ロックバンド「アジアン・カンフー・ジェネレーション」のボーカル。ソロでも活動。

 17日にソロのブルーレイ「Tour 2016 “Good New Times\"」が発売。詳しくは(http://www.spm-store.com/shopbrand/Gotch/)別ウインドウで開きますへ。

 バンドの「映像作品集13巻~Tour 2016-2017『20th Anniversary Live』at 日本武道館~」のブルーレイ、DVDも販売中。詳しくは(http://www.asiankung-fu.com/)別ウインドウで開きますへ。

鷲田清一さん「人々が行き交う十字路に」

 ことばを選ぶにあたっては、ずっと、「ことばのデモクラシー」ということを心がけてきました。ことばのアリーナを文筆や言論の世界に限らないで、できるかぎり広くとる。生きている人もいない人も、おとなも子どもも。とりわけふだんあまり光の当たらない場所でつぶやかれることばを拾うよう努めてきました。そういう思いを察してか、友人や同僚たちが「こんなことばがあるよ」「このことば、どう?」と、日頃から気にかけ連絡をくれます。いろんな人に支えられての千回。この欄を、めったに出会うことのない人たちが行き交う十字路のようなものにし続けたいです。