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 感染症では、人から人にうつる病気なのか、もしうつるなら、どのような経路によるのかを知っておくことが重要です。

 医療現場の感染制御では、①病原体が空中に浮遊し、空気を吸い込むことで伝染する②感染した人の唾液(だえき)のしぶきなどを介して伝染する③患者さんから排泄(はいせつ)された便や吐瀉物(としゃぶつ)で汚染されたものから手指などを介して口から病原体が体に入る――といった感染経路に注意することが重要になります。

 さらに、もう一つ重要な経路があります。血液を介しての感染です。

 血液を日常的に扱う医療従事者は、誤って、患者さんに使った注射針などを自分の手に刺してしまうことがあります。医療業務中の代表的な血液感染はB型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスの感染です。中でもB型肝炎ウイルスは感染力が強く、B型肝炎ウイルスを保有する患者さんの血が付いた注射針を刺した場合には数十%の確率で感染するとされています。

 30年以上も前の話になりますが、私が研修医だった頃、医療従事者が劇症肝炎で死亡した事例が各地で報道されました。その頃から社会的にも医療従事者の安全に徐々に目が向けられ始めたように思います。

 当時(1980年代)の米国の資料では、医療従事者のB型肝炎罹患(りかん)率は一般の人の2~4倍とされていました。現在は、B型肝炎の予防接種(ワクチン)を受ける医療従事者が増えたので、以前よりは罹患率が低下していると思われます。

 C型肝炎ウイルスの感染率はB型にくらべて低いのですが、B型肝炎のようなワクチンはありません。2002年のWHOの報告では、「世界の3500万人の医療従事者のうち毎年200万人(約6%)が患者に使った針を自分に誤って刺し、医療従事者のB型肝炎の37・6%、C型肝炎の39・0%、エイズの4・4%は針刺しが原因である」とされています。

 さて、ここまでは医療従事者が患者さんから感染症をもらってしまう場合をお話ししましたが、逆に医療従事者から患者さんに感染症をうつしてしまう危険もあるのです。

 特に私どもが気をつけているのは、伝染性の強いはしか、水ぼうそう、風疹、おたふくかぜ、インフルエンザなどです。医療従事者がこれらの病気を発症して、知らぬ間に患者さんや医療スタッフに感染を広げてしまうと大変危険です。病院には抵抗力が弱った患者さんも入院しているからです。

 はしか、水ぼうそう、風疹、おたふくかぜについては、感染制御の学会が、予防接種などによって強い免疫(具体的には十分な量の抗体)を獲得するよう、医療従事者に推奨しています。患者さんに安全な医療環境を提供すること、同時に医療従事者の健康を守ることも感染制御の大切な役目になっています。

<アピタル:弘前大学企画・感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座教授 萱場広之)