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 長崎県のテーマパーク、ハウステンボス(HTB)が年々その姿を変えつつある。「世界最大」や「日本初」「アジア最大」などをうたう企画やアトラクションを連発。入場客も増えているが、「オランダの街並み」が売り物だった当初の「テーマ」はすっかり薄れた。

 1月初めの土曜日、午後6時。カウントダウンとともに一斉にLEDの光がともると、「うわあ」とあちこちでため息がもれた。欧風の建物から青い光が滝のように流れ出し、光のトンネルが赤に染まる。寒空の下、家族連れやカップルらが見とれていた。

 「世界最大」という約1300万球のLED電球を使ったイルミネーション。2010年に「東洋一」の規模で始め、翌年に「世界最大級」へ。集客に苦労した冬の目玉企画となった。大阪市の女性(27)は「思った以上にきれい」。札幌市の女性(24)は撮影した写真を見て「インスタ映えしそう」。夜のイベントは傘下のホテルの宿泊客を増やす効果も生んだ。

 経営不振が続いて10年に旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)の傘下に入った後、HTBはこうした新しい企画を連発してきた。「オンリーワンかナンバーワンか。どちらかしかやらない」。HISとHTBの社長を兼ねる沢田秀雄氏(66)はこだわりを語る。

 「九州初」という常設の歌劇団、VR(仮想現実)による「世界最速・最長・最高」のジェットコースター。春からは「アジア最大級」の約120万本のバラが咲き、年に4回、「九州一」の花火が夜空を彩る。開業25年の昨年には300機のドローンを夜空に飛ばすなど、すっかり「ごった煮」の様相だ。

 こうした取り組みの背景には、テーマパーク経営の肝といえる「テーマ」の弱さがある。国内で圧倒的な人気を誇る東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)の「ミッキーマウス」のようなキャラクターもいない。沢田氏は「映画会社がバックにあればどんどん素材が提供される。HTBは自分たちで新しいことをやるしかない」と話す。

 1992年の開業当初は「オランダの街並みを再現した」ことが売り物だったHTB。敷地内に並ぶ風車や塔などがそれを体現している。だが、海外旅行が日常化した時代に、客を引きつける魅力に十分なりえなかった。

 東京や大阪から遠いといった悪条件も重なり、入場客は96年度の380万人を頂点に減少傾向になり、09年度には141万人。開業から一度も、営業黒字化を果たせなかった。HISの傘下入り後は業績も急速に回復に向かい、黒字化も達成。直近の年間入場客も288万人、営業利益は75億円に伸びた。「オランダはもう意識していない」。HTBの関好古イベント・マーケティング本部長はいま、そう言い切る。

 ただ、課題を指摘する声も根強い。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪市)でマーケティング担当などを経験した奈良県立大学の大和里美准教授(観光ビジネス論)はHTBについて、「テーマ」を捨てた企画が集客を増やしたと評価しつつ、「テーマに一貫性がない場合、場内での経験そのものが記憶に残りにくい」と言う。様々な仕掛けの一方で近年は入場料金を毎年値上げし、東京ディズニーランドと大差ない。「金額に価値が見合わないと、リピーターが生まれない」(大和准教授)

 人口減も逆風だ。今後も右肩上がりで入場者が増えることは望みにくい。HTBもそうしたシナリオをみすえ、収益確保へ新しいビジネス創出に力が入る。

 その一つが、人件費などの削減のためロボットが接客する「変なホテル」。15年にHTB内に1号店がオープンして話題を呼び、東京など4店舗に広がった。HISグループで3~5年以内に世界で100店舗を展開することが目標だ。15年にはエネルギー子会社もつくり、HTBへ電力を供給後、全国で家庭向けの電力小売りに参入した。太陽光パネルなどを製造して販売する構想もある。

 昨秋には、新しい通貨構想も打ち出した。HTBが保有する約1トンの金で価値を裏付けた「世界初」の電子マネーを発行。従業員向けに実験をし、将来はHTBの外でも使えるようにしたいという。

 一連の路線でこのまま勢いを保てるのか。主導してきた沢田氏は昨年の記者会見で、「(社長を)3年以内にバトンタッチしたい。若手の経営陣に育ってほしい」と表明した。「ポスト沢田」の時代が迫り、「カリスマに代わる人材をどうするか見通すのは難しい」(ながさき地域政策研究所の菊森淳文理事長)との見方もないわけではない。(山下裕志)