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 本紙「声」欄に、心臓移植の準備をする1歳の次男に病院で付き添う母親から投稿が届き、昨年10月28日付東京本社版の朝刊に「心臓移植 国内で受けられたら」という見出しと共に掲載した。460字ほどの投稿は、介護休業制度の不十分さ、家族の分断といった厳しい療養環境の改善を願う叫びだった。

 この母親に会った。話を聞くと、平日は彼女が、週末は夫が病院に泊まり込んで付き添っていた。母親は、次男の病気が診断される前に、第3子を妊娠していた。

 「(保育園に通う)長男がいるため、夫は残業や夜勤が出来ず、我が家の収入は半分になりました」

 乳幼児や高齢者の入院の場合、病院によっては家族がベッドの隣に寝泊まりする付き添いを求められることがある。仕事と介護の両立支援のために育児・介護休業法があるが、限度がある。投稿者の場合は介護福祉士で、正職員だが、介護休業は対象家族1人につき通算93日しか認められない。10月末にその93日に達し、今度は夫が介護休業に入ったが、まもなく93日に達してしまう。その後は第3子の育児休業で付き添いをつなぐ予定だ。

 いつ臓器提供者が見つかるか分からない、この次男のような長期入院患者を抱える共働き世帯にとって、現行の制度は融通が利かないものと言わざるを得ない。

 子供の重症患者は今、拠点病院に集約して専門的治療をするのが医療政策の流れだ。場合によっては通院・入院先が自宅から遠くなる。また、移植の待機患者や小児がん患者などは入院期間が長くなりがちだ。

 昨年8月に本紙に掲載した「患者を生きる 我が家で 小児がん」編で取材した埼玉県の夫婦の事例も紹介したい。2013年に2歳の次男に脳腫瘍(しゅよう)が見つかり、都内まで通院・入院で奔走。この間に1歳上の長男は、保育園の入園が認められた。15年に次男は死去。すると、看護の必要がなくなったからと、長男が保育園の在籍資格を失いかけた。母親はパート勤務を始め、長男の退園は免れた。次男の看取(みと)りから、わずか1カ月。グリーフケアが必要な時期だというのにだ。「長男はあと半年で卒園式。そのまま卒園させてあげたかったから」と彼女は言う。

 子供の医療費助成はこの10年で充実した。ただし、今や共働き世帯は1129万世帯で増え続けている。療養環境の充実のためには、リアルな家庭像や家族像、家族に求められる役割に思いを致し、そのうえで、病児と家庭をサポートする施策を考えることが重要だ。

 子育て支援や女性活躍の施策が注目されるが、対象者が少ないからといって、病児を抱える親たちの「子供のためだから」という我慢に、私たち社会は甘えてはいけない。

<アピタル:オピニオン・記者有論>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/(岩崎賢一)

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当を経て、現在はオピニオン編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)