永田豊隆
妻に何が起きているのか、はじめは理解できなかった。
大量の食べ物を胃に詰め込む。すべてトイレで吐く。昼となく夜となく、それを繰り返す。彼女が心身に変調をきたしたのは結婚4年目、2002年の秋。当時29歳だった。
休日の朝、私の運転でショッピングモールに出かける。食料品売り場に着くと、彼女の目つきが変わる。弁当、刺し身、菓子パン、炭酸飲料――。夢中で買い物かごに入れる。話しかけても反応がない。パンパンにふくらんだ買い物袋をいくつも抱えて車に乗る。
家に帰ると、買った食材をテーブルに山盛りにする。「私の大事な時間。邪魔しないで」。そう言って、黙々と口に入れる。から揚げをつまみながら、もう片方の手で大量の即席ラーメンをゆでる。食べるものに脈絡はない。
普通の食事の3倍は食べたあたりで、ペットボトルを片手にトイレにこもる。水をのどに流し込みながら、時間をかけて吐き出す。嘔吐(おうと)の音と洗浄音が繰り返し聞こえてくる。
トイレから出てくるとほおがこけ、顔色が真っ青だ。手足は冷蔵庫に入れたように冷たい。その手で再び食べ物を口に運ぶ。こうしてリビングとトイレを何往復もするうちに、外は暗くなる。深夜、「やっと胃が空っぽになった」とベッドに入る。
「食べたい」という衝動は、い…
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朝日新聞社会部