終戦後もしばらくベトナムに残った「残留日本兵」の妻で、昨年3月にベトナムを訪問した天皇、皇后両陛下と面会したベトナム人のグエン・ティ・スアンさんの葬儀が20日、ハノイ市内で営まれた。夫が日本でもうけた家族から夫の遺骨を分骨してもらい、夫とともにベトナムの土に眠ることになった。

 18日に93歳で亡くなったスアンさんの葬儀には親族ら多くの人が集まり、在ベトナム日本大使館の梅田邦夫大使も参列した。遺骨は分骨された夫の遺骨とともに、ハノイ市内の郷里に埋葬された。

 スアンさんは日本人の夫と1944年にベトナムで知り合った。夫は第2次世界大戦末期にベトナムに送り込まれ、その後もベトナムに残った残留日本兵だ。54年に、当時の北ベトナム政府が旧日本兵の帰国を決め、妻子帯同を認められぬまま日本に帰っていった。スアンさんは苦労して3人の子どもを育てた。

 2000年代に入って行方が判明した夫は、日本で再婚していた。06年に夫は日本人の妻に付き添われてハノイを訪問し、スアンさんと52年ぶりに再会。その後、再び会うことはなかったが、スアンさんは夫を思い続けた。

 昨年3月には、ベトナムを訪問した天皇、皇后両陛下と面会した。天皇陛下が腰をかがめてスアンさんに耳を傾け、「いろいろご苦労もあったでしょう」と語りかける場面もあった。

 残留日本兵の家族に取材し、友人として長年寄り添ってきたハノイ在住のライターの小松みゆきさんは、「スアンさんがいることによって(元残留日本兵の夫や父を持つ)人たちがクローズアップされた。彼女は自分の人生も完結させた。今までずっとばらばらだった夫を思い続けて、いま2人だけでベトナムの土の中で一緒になれる。これはもう浄瑠璃や歌舞伎で言えば、死して2人は成就したという感じで、すごいことだと思う」と話した。(ハノイ=鈴木暁子)