後絶たぬ介護施設の虐待 処遇や職場環境の不満、矛先に

及川綾子
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 川崎市の有料老人ホームで2014年、入所者の男女3人が相次いで転落死した事件で、3件の殺人罪で起訴された元職員の今井隼人被告(25)の裁判員裁判が23日、横浜地裁(渡辺英敬裁判長)で始まった。

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 介護施設で暮らす高齢者が職員から虐待を受ける事例は後を絶たない。

 厚生労働省の調べによると、虐待件数は調査を始めた2006年度から9年間で8倍近くに増え、15年度は408件。初めて虐待死の報告もあった。昨年8月には東京都中野区の有料老人ホーム内で83歳の男性入居者が溺死(できし)。その後、元職員が殺人罪で起訴された。

 日本虐待防止研究・研修センターの梶川義人代表(59)は「処遇や職場環境に不満を抱えて仕事をしている職員は、いらだちから目の前の高齢者に『負担をかけられている』と攻撃の矛先を向けてしまうこともある」と指摘。予防策として「管理職は『不適切なケアはケアではない』と周知し、現時点で一番いい介護を追求する姿勢が重要だ」と強調する。

 ただ、対策は行き届いていない。介護職らの労働組合「日本介護クラフトユニオン」が16年に組合員を対象にした調査では、虐待についての研修は「どちらかと言えば」も含め約半数が「不十分」と答えた。

 厚労省は昨年3月、特に介護職らの虐待について「高齢者虐待はあってはならないことで極めて遺憾な事態」とし、再発防止策を自治体に要請。各施設で介護技術や認知症への理解を深める研修を行い、職員のストレス対策の実施を促すため、自治体が各施設の長らに研修を行うよう求めている。

 埼玉県では4月に施行される虐待禁止条例で、虐待防止の研修実施を各施設に義務化し、職員の受講も義務づけた。(及川綾子)

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