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 初優勝がかかった土俵は特別だ。6年前に平幕優勝した旭天鵬(現友綱親方)は佳境に入ってくると寝付けなかったという。でも、栃ノ心は違った。前夜もぐっすり寝た。仕切る間も気持ちがぶれなかった。「これなら大丈夫だ」と確信し、当たった。

 前に、前に。かわされるのも恐れず、突き押しで松鳳山をがむしゃらに攻めた。最後は得意な右とは逆の左差しになっても構わず、そのまま寄った。拍手喝采。「あんまり涙とかは見せたくないから」。花道を去るまでうれしさはかみ殺した。

 一度は土俵際まで追い込まれた相撲人生だ。2013年名古屋場所5日目、相手を力任せに持ち上げたとき、右ひざの2本の靱帯(じんたい)が切れた。春日野親方(元関脇栃乃和歌)も「(現役を続けるか)慎重に判断せざるを得なかった」。大好きな酒に逃げた。でも、稽古場に立つとちょっとずつ気持ちが上向いた。2度の手術を経て、動けない間に20キロ太った体を鍛え直した。

 「けがの後の方が相撲が速くなった」。長い相撲はひざへの負担が大きい。だから、得意な形にこだわらずにひたすら前に攻めることを心がけた。そして「いつか優勝する」と誓い、幕下からはい上がってくる間に鍛えられた気持ちの強さが、大一番で生きた。

 取組後、いつもと変わらず、国技館から500メートルほど離れた部屋まで歩いて帰った。ファンがサインや写真を求めて団子状態になる中、本人は「メッチャ落ち着いているんだよね、今」と言った。苦労がついに報われた。(菅沼遼)

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