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 憲法改正の議論が熱を帯びている。自民党は年内の国会発議を目指し、通常国会で議論を加速させる構えだ。安倍晋三首相とともに改憲論議の旗振り役を担ってきた日本維新の会の前代表、橋下徹氏(48)は今、9条2項削除は「極めて危ない」と言う。その理由は何か。橋下氏に聞いた。

隠蔽体質「こんな政府組織に…」

 ――憲法改正が一大政治課題になっている。橋下さんも憲法改正について発言を重ねてきた。橋下さんが政界に入った10年前とはまったく違った状況になっていると思うが、その要因をどう考えているか。

 やはり、言い続けることじゃないですか。安倍首相が問題提起するまでは自民党もへなちょこだった。安倍首相が政権をとって問題提起し続け、僕も微力ながらも言い続け、さらにはメディアが批判的意見も含めて報じ続けてくれた。その積み重ねで、憲法改正をめぐる雰囲気が変わってきた。賛成意見と反対意見が盛り上がることで、国民の認識が広まる。

 僕の持論は、戦力の不保持と交戦権の否認を掲げ、自衛隊に必要最小限度という過度な制約を課す根拠となっている9条2項の削除だ。だが、今の国会議員には必要最小限度という制約のないフルの自衛権を任せられない。国会議員の人間性、判断力。実際に間近で見てきたが、ひどいものだった。それに、森友学園・加計学園問題における財務省・文部科学省のいい加減さ。文書は廃棄した、記憶にない、事実調査はしない、のオンパレード。さらにPKO日報問題に関する陸上自衛隊幹部の隠蔽(いんぺい)体質。こんな政府組織にフルの自衛権を委ねるのは恐ろしすぎる。なんといっても稲田朋美さんが防衛大臣に就任してしまうという、適格性のチェックがずさんな今の大臣任命の仕組みは大問題だ。

 それから靖国問題。僕は国のために命を落とした兵士がまつられている場所を天皇陛下や首相が参拝できない国に、自衛組織を持つ資格はないと考えている。陛下や首相が参拝するには、靖国神社を国立化した上で、A級戦犯を分祀(ぶんし)するしかないと思う。でも、国が強制的に分祀しようと思ったら、宗教の自由を定めた憲法20条の改正が必要になる。

 さらに、過去に命を落とした兵士だけでなく、今後命を落とした自衛官に対して、国民はどのように尊崇の念を表するのかについて、確たる方針もない。また、戦争被害に遭った国民をどうやって補償するのか、一般的な補償制度も存在しない。こんな今の日本には、制約のないフルの自衛権を持つ十分な耐性がないように感じている。

 日本を取り巻く現下の国際情勢が厳しいことをいいことに、威勢よく「9条2項削除!」「日本はフルの自衛権を持つ必要がある!」と声高に叫ぶことは政治家としてカッコいいことなのかもしれないが、「必要性」だけで判断してはならない。日本がフルの自衛権を持つ耐性があるのか、すなわち「許容性」「資格」についても吟味が必要だ。

 その視点からすると、9条2項の削除は極めて危ないと思う。実際、公明党は9条2項削除に反対だし、国民の多くもそのようだ。

自衛隊「積極明示には反対」

 ――9条2項を残したまま憲法に自衛隊を明記する案については、どう考えるか。賛成か、反対か。

 自衛隊を憲法に明記することに賛成か反対か、という抽象論で論じても意味がない。まずは具体的な憲法改正案の文言が出てこないと、具体的な議論はできない。

 僕は、「自衛隊を保有する」というように、自衛隊の設置について憲法で積極的に明示するのは反対だ。そうではなくて、「9条1項、2項の規定は自衛隊の存在を妨げない」というように、消極的に謙虚に書くのなら賛成だ。

 自衛隊の存在を積極的に憲法に明示すると、その他にも定めなければならない事項が次から次へと出てくる可能性が高くなる。特に学者の間では、自衛隊に対する内閣の最高指揮権やシビリアンコントロール(文民統制)まで憲法に明記するべきだという意見もある。これには僕は大反対だ。

 憲法で最高指揮権やシビリアンコントロールを規定してしまうと、憲法の下位にある法律や議会で統制ができなくなる恐れがある。米国の大統領は、軍の最高指揮権が憲法で大統領に与えられていることを根拠に、議会からの統制を拒んでいる。明治憲法による天皇の統帥権も、同じような問題を抱えていた。

 憲法に内閣の最高指揮権と同時に議会の権限も明記したらいいではないかとの意見もあるが、自衛隊をどのようにマネジメントするかという実務的な規定は、改正が著しく困難な憲法ではなく、改正が柔軟にできる法律で定めるべきだと思う。(左古将規、池尻和生)

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 はしもと・とおる 69年生まれ。弁護士。08年2月に大阪府知事に就任。11年12月には大阪市長に。首長の立場で地域政党の大阪維新の会と国政政党の日本維新の会を立ち上げ、代表を務めた。15年12月に市長を退任して政界を引退。講演活動やインターネットテレビなどで発信を続ける。