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 「父親も育児に参加を」。国がそう呼びかける時代になりました。でも「男は仕事」という意識からの転換はちょっと大変――。

 2015年の10月、東京都国分寺市の会社員男性(31)は、職場でこう宣言した。

 「保育園のお迎えがあるので、これからは毎日定時で帰ります!」

 妻(31)はフルタイムで働く。長女(2)が保育園に入園したタイミングだった。

 いずれの実家も遠方で、近くに頼れる人はいない。通勤に片道1時間かかる妻に対し、男性の職場と保育園は自宅から徒歩圏内。送り迎えを担うのは自然な流れだった。

 ときに深夜まで残業していた生活は一変。送迎と朝晩の食事の支度をほぼ1人でこなす。仕事の代わりはいても父親は自分だけ。「定時退勤」宣言に後悔はない。でも時折、気持ちが揺らぐ。

 自分と同世代以上の男性社員で共働きの人は少ない。給料は新入社員のころと同じぐらいに減り、差がついた。「この働き方で評価されるのは難しい」と割り切る一方、「なんで、定時に帰る選択肢が当たり前の社会じゃないんだろう」と疑問を感じる。

 保育園の送り迎えは、あと3年余り。この間は定時退勤が続く。2人目の子どもを、とはなかなか思えない。

 東京都中央区の会社員男性(38)は9年前に中途入社した会社で、新卒入社の同僚に引けを取らないよう必死で働いてきた。新規事業が立ち上がれば手を挙げ、出張が続く部署への異動も受け入れた。

 4年前に長女が生まれても、家事や育児はほとんど会社員の妻(33)任せ。だが、妻が体調を崩した。

 「このままじゃだめだ」と保育園の近くに引っ越し、送り迎えや家事を分担。娘の迎えのときは午後6時に会社を飛び出す。ほかの日もなるべく午後7時には退社し、まっすぐ帰宅するようになった。

 時間に制約がある立場では「いいポジション」を求めて異動を希望したり、転職の誘いに乗ったりすることも難しい。「ある意味、仕事でやりがいを追求することをあきらめて実現した生活」と言う。

 世間で「イクメン」が称賛されると、つい冷めた目を向けてしまう。「仕事をばりばりしながら育児にも関わるなんて、どうすればできるんでしょうか」

育休がトラウマに…

 子どもがいても、仕事が終わってからまっすぐ自宅に帰らない父親もいる。

 昨年12月上旬、東京都心のオフィス街にあるファミリーレストラン。夕暮れになると、サラリーマンが1人、また1人と入っていく。

 午後6時すぎ、会社員男性(37)が入店し、コーヒーを注文した。200円でおかわり自由のいつもの一杯。妻(35)にLINE(ライン)でメッセージを送る。「今日も残業。がんばります!」

 すぐに既読にはならない。子どもたちの相手をしながら、食事の支度に忙しい妻の姿が浮かんだ。送信後、歴史小説を読みふけり始めた。

 週1、2回、ファミレスや書店で時間をつぶし、午後9時すぎに帰宅する。今春から会社で働き方改革が始まり、週1回は午後5時半に退社するようになった。

 「でもどうしても足が家に向かない。僕はフラリーマンです」

 フラリーマンとは、仕事が早く終わってもまっすぐ家に帰らない人たちのこと。企業で働き方改革が広がるなか、こんな人が増えている。

 男性の妻は正社員で、子ども2人の育児のため制限勤務を続ける。昨年、妻の職場復帰を機に3カ月の育児休業を取った。そのときの体験がトラウマになった。

 「このタオル、たたみ方がまた違うよ」「観察力、なさすぎだよね」

 最初は優しく教えてくれた妻も、忙しさから指摘がきつくなった。今も妻にダメ出しされるが、表だってけんかはしない。衝突するのはかえってしんどいから。

 働き方改革が始まった日、迷わずファミレスに向かっていた。家のドアを開けるとき、いつも自分に言い聞かせている。「つかの間の息抜きだから。彼女もママ友とランチをするだろう?」

 午後8時すぎ、「もうすぐ帰ります」と再び妻にLINEを送った。今度はすぐ「お疲れさま」というクマのスタンプが返ってきた。罪悪感で胸がズキンとうずいた。

 「イクメンになりたいけど、息抜きなしで長続きは無理。妻に申し訳ないけれど、これが等身大の僕ですから」(中井なつみ、山内深紗子)

田中俊之・大正大准教授(男性学)の話

 日本社会はいまイクメンを奨励し、「女性活躍」も叫ばれるようになったが、「男が家計を担う」という性別役割分業の考え方は根強い。男女間には賃金格差があり、勤務時間の長さで評価される実態が残る。子育て真っ最中の30~40代前半ぐらいの世代は、矛盾を感じる人が多いだろう。従来のような大黒柱としての男性の働き方を変えられなければ、板挟みで悩む人が増えるだけ。個人の努力に委ねるのではなく、社会全体で働き方を変えていく必要がある。

ご意見、体験談お寄せください

 仕事を終えたのに育児・家事には気が進まず、すぐに帰宅せずに外で時間を潰す「フラリーマン」について、どう思いますか。ご意見や体験を募集します。メールseikatsu@asahi.comメールするかファクス03・5540・7354、または〒104・8011(住所不要)文化くらし報道部「家族って」係へ。連絡先もお書き下さい。