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患者を生きる・遺伝性がん(記者の一言)

 今回取材させていただいた、遺伝性がんの網膜芽細胞腫で右目を失った大阪市の野口麻衣子さん(35)は第3子の出産について迷っているそうです。「子供は欲しいけれど、また遺伝してしまうかもしれないと考えると容易に踏み切れずにいる」と話しています。もし次の子を望むなら着床前診断をやりたいとも考えているそうです。

 着床前診断は、体外受精の際にまず受精卵が何度か細胞分裂した段階で一部の細胞を取り出し、遺伝子や染色体を調べる方法です。お母さんの子宮に着床する前に遺伝子に変異があるかどうかがわかります。ただ、命の選別につながるため、日本産科婦人科学会は会告で命にかかわる重い遺伝病に限って認めています。個別のケースごとに学会で審議されますが、網膜芽細胞腫の審議例はまだないそうです。

 野口さんは、両目に網膜芽細胞腫が見つかった次男七誠くん(1)の成長を何よりも喜び慈しんでいます。「病気になったからこそ、得られたもの、気付かされたこともたくさんある」と言います。しかし一方で、「自分の子どもには遺伝の問題で苦しんで欲しくない」と感じているそうです。生まれてすぐにがんを早期発見できても、がんの場所によっては視力に影響が出る場合もあります。

 「生まれてくる子の視力を守るための着床前診断が承認され、遺伝性がんで苦しむ人が着床前診断をする、しないを自由に選択できる世の中になって欲しい」と話しています。

 お話を聞くうちに、出口のない問いを投げかけられたような気がしました。そうした葛藤を抱える人たちの思いを今後も伝えていきたいと考えています。

 

<アピタル:患者を生きる・妊娠出産>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(服部尚)

服部尚

服部尚(はっとり・ひさし) 朝日新聞記者

1991年入社。福井支局をふり出しに、東京や大阪の科学医療部で長く勤務。原発、エネルギー、環境、医療、医学分野を担当。東日本大震災時は科学医療部デスク。編集委員を経て、現在は科学医療部記者。