シリーズ:梅毒
過去の病ではない梅毒、死に至ることも
梅毒は、性行為関連で感染する性感染症の一つです。古くから知られている疾患ですが、近年感染者が急増し問題となっています。4回にわたって解説します。
梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌に感染することで起こります。口、陰部、性器などの粘膜や、傷ついた皮膚などから侵入し、胎盤も通過できます。直接病原菌に触れることで生じる「接触感染」が主な形です。
感染すると、症状のない「潜伏期」と症状があらわれる「顕性期」が交互に出現し、様々な症状を見せながら長く続きます。初期の主な症状は、感染部位である陰部や口腔(こうくう)内の潰瘍(かいよう)で、その後、体に赤い斑点が出現します。これらの症状は時間がたてば消えますが、無治療で10年以上放置すると神経や心臓・血管に影響が出て、最悪の場合死に至ります。
梅毒は歴史の授業でも取り上げられることがあるほど歴史的な病気です。その由来は、大航海時代にコロンブスがスペインに寄港した際、病原菌をアメリカ側から持ち帰り、15世紀にヨーロッパで大流行した、という説が有力です。しかしそれ以前からヨーロッパに存在していたという説もあり、明確な起源は不明です。
梅毒を含む性感染症は、戦争や社会情勢の乱れなどにより増加します。梅毒感染者は第2次世界大戦後に急増しましたが、世界初の抗生物質であるペニシリンの開発と普及により激減しました。1960年代に小規模の流行がみられましたが、その後は散発的に新規患者が報告される程度でした。
しかし近年、感染者の増加が発展途上国だけでなく、日本、中国、米国、ヨーロッパなどでも報告されています。厚生労働省の感染症動向調査によると、国内の報告件数は2003年までは減少傾向で、千件以下が続いていましたが、16年には4千件を超えました。梅毒は「過去の病」ではなく、注意が必要な疾患なのです。
<アピタル:医の手帳・梅毒>
http://www.asahi.com/apital/healthguide/techou/(ながたクリニック 増井由紀子医師(皮膚科))
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