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 鉄道車両や風力発電の風車といった超重量物は、交通量の少ない深夜に特殊車両で運ばれます。こうした「大物」を専門に運ぶ会社が大阪市に本社を置くアチハ。鉄道車両の輸送は国内屈指の同社で輸送部長を務める高田正博さん(55)は、入念な準備を欠かさない凄腕(すごうで)です。

 1月中旬の深夜、工場で新造された電車を積んだ特殊車両がゆっくりと走り出した。気温は零下5度。吐く息は白い。無線機を手に回転灯のついた車に乗り込み、後に続いた。

 重い、長い、大きいといった理由で、普通のトラックやトレーラーでは運べない超重量物の輸送を専門に扱う会社、アチハ(大阪市)で現場責任者を務める。この日は、鳥取県の工場から、島根県出雲市の一畑電車の駅まで鉄道車両を運ぶ作業を指揮した。

 「対向車が来てるぞ」「タイヤ、右半分横に」。約60キロの道のりを3時間かけて運ぶ間、特殊車両の運転手に無線で何度も指示を飛ばす。駅に着いたら、明るくなるのを待って大型クレーンを使った電車の積み下ろしに移る。特殊車両の下に敷く天板の霜を払ったり、電車がぐらつかずに安定しているかを確かめたり。約10人の同僚に声をかけ、安全に常に気を配る。

 長さ50メートルを超える風力発電の風車の羽根、直径3.8メートルもあるLNG(液化天然ガス)タンク、重さ300トン以上のプレス機……。鉄道車両のほかにも、さまざまな「強敵」と向き合う。

 風車が何基も立ち並ぶ大型風力発電所に羽根などを運ぶ仕事なら、計画段階から移設を終えるまで2年がかり。現場に数カ月入り込むこともある。

 この業界に入ったのは30代半ば。京都で知人の不動産会社を手伝っていた時、偶然すれ違った特殊車両に興味を持ち、運転免許を取った。「単純に特殊車両を運転したかったんです」。2012年春まで運転手をした後、現場責任者に。運転手、責任者として運んだ超重量物は約1500基を数える。14年には「義経号」と呼ばれる蒸気機関車(SL)を、大阪市内から京都市の鉄道博物館まで運んだ。

 段取りが仕事を左右する。モノによっては道路を一時、通行止めにしないと運べない。道路管理者や警察の通行許可が取れる時間帯は、交通量の少ない深夜がほとんど。限られた時間との勝負だ。目的地までの経路にある「難所」はどこか。現地を走って下見し、巻き尺や測量機器などで入念に調べ、最適な経路を練る。「困るのは高さや道の勾配ですね。2次元の地図や図面ではわかりませんから」

 荷物を傷つける可能性がある、通り沿いの木の枝や標識も見落とせない。1週間かけて、朝から晩まで現地で調べることも。荷物の重みで橋が落ちるおそれがあれば、別の部署や協力会社と話し合い、橋の上に仮設の橋をかけ、渡ったらすぐに撤去する案も考える。警察の許可を得て、「止まれ」などの道路標識を切断してボルトで仮どめし、輸送後に直すことも珍しくない。「狭い交差点をうまく曲がれ、見立てた通りにぎりぎりの高さの場所を抜けられると、やっぱり面白い」

 運ぶ荷物に興味はない。SLなどの人気車両を運ぶと、見物客や「撮り鉄」が集まり、並走して写真や動画を撮ろうとする人もいる。近寄る人たちに声をかけ、安全な場所に誘導するのも技の一つだ。鉄道車両の輸送数では日本屈指だが、「超重量物すべてで日本一」になるのが目標だ。(伊沢友之)

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 たかだ・まさひろ 東京都北区出身。高校卒業後、飲食店経営などを経て、トレーラーの運転に必要なけん引免許などを取得。1998年に運輸業界に転じ、2008年アチハに入社。16年から現職。

凄腕のひみつ

◇車外からリモコン操縦

 車体が長い特殊車両で狭い道を抜けるときは、運転手と協力し、後続車からリモコン操作で後輪を動かすこともある。「特殊車両に乗ってはいませんが、私も運転手の1人なんです」

◇孫と遊びストレス発散

 休日の楽しみは、近所に住む3~8歳の4人の孫と遊ぶこと。自宅には、滑り台や鉄棒などの遊具やおもちゃが置いてあり、孫が泊まりに来る日はにぎやかだ。全国の現場を飛び回っているので留守にしがちだが、「自分の時間もないとだめなタイプです」。ストレスをためこまないよう、仕事と生活の調和を保つよう心がけている。