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 医療の進歩で「がん=死」でない時代になったからこそ、「がんと仕事」「がんと子育て」といった治療と日常生活の両立支援が重要な時代になりました。朝日新聞の声欄にも、患者や家族から様々な悩みや経験が寄せられています。そこで乳がん経験者で、今は患者の就労相談や両立支援にかかわるキャンサー・ソリューションズ社長の桜井なおみさん(51)に、アドバイスを聞いてみました。

 まず、先進的に取り組む企業について尋ねると、厳しい言葉が返ってきました。「治療をしていても仕事と両立できるように支援している、制度が整っているといわれる企業でも、案外ドライなところがあります。情がないところですね」

 病気の種類や治療方法、副作用、家族などのサポートなど患者が置かれた状況は違います。会社は一律に適応できるように制度設計をしますが、必要な両立支援は、休みや時短勤務、業務の軽減、配置転換、費用の補助、テレワーク、転勤免除など、人によって違います。ただ、これらを認める制度があっても、適用に厳格だったり、制度で認められている期間が終了すると、事実上職場にいられなくなったりするケースがあるからです。桜井さんのところには、「先進的な企業」とされているところからも相談者がいるので、軽々には言えないということです。

 がん治療は、新しい治療法や新薬が次々と開発されていますが、副作用は様々です。また、高額療養費制度の上限額が変わったり、再発や転移では民間保険の使い勝手が悪かったりする場合があり、治療費や生活費といった支出と収入のバランスに、患者や家族は悩みます。

 例えば、朝日新聞への投稿で、こんな声がありました。

 「昨年12月に再発。今が本当の『がんとともに生きる』のスタートです。正直な話、治療にはお金がかかります。先々のことを考え、最初の治療の後に再就職しました。QOL(生活の質)が向上し、社会から取り残されていないんだという気持ちも、治療を前向きにさせてくれています。もちろん、そこには職場環境、会社の理解と制度があるからだとも思っています」(埼玉県 会社員 46歳)

 こういった声に対し、それではお金の悩みは誰に相談すればいいのでしょうか、桜井さんに聞いてみました。

 桜井さんは「まず、病院の中にいるソーシャルワーカーに相談するのがいいでしょう」と言います。場合によっては、障害年金を請求できる人もいます。傷病手当をもらうと働けませんが、障害年金なら働くことが可能なので減収部分をある程度補えます。全ての人が認められるわけではありませんが、これは「障害年金に詳しい社会保険労務士」に相談するといいと言います。桜井さんが知るケースでも、急性白血病やリンパ浮腫で8時間勤務が厳しかったり、放射線の全脳照射で仕事の質が落ちたりした人たちに、障害年金が認められている人がいるといいます。

 昨年、がんの転移が見つかり、手術をした保育士の方からは、こんな投稿が届きました。

 「主治医からは『働いた方が良い』と言われ、公立保育園で働き始めましたが、園長から『あなたがいると子どもたちに影を落とす』『前の職場でもどうせ仕事はできなかったのでしょ』『職員が重たいものを持っていたら持ちますくらい言いなさいよ』などと言われ、つらい日が続いて職場を去りました」(静岡県 主婦54歳)

 桜井さんは開口一番、「保育士はいま売り手市場、気持ちを切り替えて他の所を探した方がいい」と強調します。この保育士の方も、最初にがん治療をした時は、別の地域に住んでいて、保育園への復職に際して、同僚の支え合いが十分あったそうです。ただ、「がんとともに」と言われる時代でも、同じ環境がどこにでもあるわけではありません。桜井さんは「採用面接試験の時にも、できないことを言うより、できることを言った方がいいと思います。がん患者だから、あれはダメ、これはダメといったダメダメリストを強調しすぎると、コミュニケーションがギスギスしてしまいます。ちょっと配慮が必要なことをお願いするという感じがいいでしょう」とアドバイスします。

 2年前、慢性骨髄性白血病と診断された会社員の女性は、服薬しながら仕事と子育てをするワーキングマザーです。薬の副作用もほとんどないといいますが、悩みを抱えていることが投稿につづられていました。

 「『あぁ、私は白血病なんだ』と思わない日は1日たりともない。日々に忙殺されてなんとか保っているが、ふとした瞬間に涙があふれ出そうになる。医学の進歩で日常生活が送れるからこそ、入院していないと弱音をはける場所がなく、時々苦しくてたまらなくなる。見た目には分からなくても、がんとともに日常生活を送っている方は私だけじゃない。そんな人たちが、弱音や不安を吐き出せる場所があれば、どんなに心が軽くなることか。いつか、ホッとくつろげる街のカフェのように、がんを抱えながら頑張って生きる人たちの安らぎの場ができればいいなと思う」(東京都 会社員 31歳)

 患者会やがん拠点病院には、サロンや相談室があります。しかし、「街のカフェ」のような雰囲気で気軽に悩みや不安を吐露できる場はまだまだ少ないのが現状です。記者が取材した東京の多摩ニュータウンにあるカフェ「カフェ・ド・スール」では、月1回、「がんママカフェ」が開かれています。ソーシャルワーカーのがん経験者のママが中心になり、街に溶け込むような感じで「がんママ」が集える場を目指しています。

 親ががんになった子どもからも投稿が届きました。中学受験中に母親の手術があった中学生からです。

 「手術は無事に終わり、今では元気に過ごしている。ただ、手術の影響があり、調理をする際に少し支障をきたすことなどがあるようだ。当時、自分の中ではそのころ反抗的だったので、そんなことに対するストレスも原因の一つではないかと思ってしまった。母には本当に申し訳ないと思っている。中学生になり、受験のころより気持ちも随分と落ち着いた。これからは少しでも母が楽になるように反抗期を終わらせるのはもちろん、自分にできることを少しでも多くやりたいと思う。実際に今、部活動がない日に、姉と交代で風呂掃除や洗濯物を畳んだり、食器洗いをしたりするなどして、できるだけ手伝っている。今後も少しずつやることを増やしていきたい」(東京都 中学生 13歳)

 桜井さんは、年齢にもよりますが、子どもも患者をサポートするチームの一員とすることが大切だと言います。治療に関われなくても、お手伝いなどの家事サポートはできるからです。例えば、薬の副作用で味覚障害がある場合は、子どもに料理の味見をお願いするといった役割を持たせることもあるといいます。

 ICT(情報通信技術)を活用した負担の少ない働き方もできる時代になりました。その一つがテレワークです。ただ、桜井さんは、これについては注意も必要だといいます。「慣れていない上司が使うと、常にパソコンのカメラが写る場に座っていないと、サボっていると判断してしまうことがあります。監視になってしまっては最悪です。一緒に働き方を考える、会社のカルチャーがないといけません」

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 朝日新聞の投稿欄「声」では、「がんとともに」をテーマに、治療と仕事や子育てなど社会生活との両立支援について考える投稿を募集しています。投稿はメール(tokyo-koe@asahi.comメールする)で550字以内。原則実名です。住所、氏名、年齢、性別、職業、電話番号を明記してください。(岩崎賢一)