【動画】諏訪湖で5季ぶりに御神渡り。記者は前兆をとらえた=依光隆明撮影
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みちのものがたり

 氷の下から音が聞こえる。

 ぐるぐる、ごごごご。まるで鯨の声のような、異界からの誘(いざな)いのような。

 1月30日朝。全面結氷した諏訪湖(長野県)が目の前に広がっていた。湖面のぐるりは16キロ、遠くに対岸の家々が見える。

 沖に向かって氷の亀裂が走っていた。亀裂で氷が盛り上がり、小さく長い山脈になっている。予感がして、カメラを構えて動画モードにする。大音響を伴って空気が震えたのは27秒後だった。

 亀裂を境に、氷のプレート同士が激突したのだ。水柱が上がり、ぶつかり合ったプレートが揺れる。割れる。陸に立っていても、怖い。

 「うーん、これはすごい。沖側の氷が陸側の氷に激突しているように見えます」

 諏訪市茶臼山の手長神社。宮司の宮坂清さん(67)が映像を見ながら言う。

 「このような自然の変化にいにしえ人は神威と畏(おそ)れを感じたはずです。湖の主(ぬし)が怒り狂っている、と」

 たとえば1356年の文書には「浜神の鳴動十数里に及ぶ」と書かれている。一帯に大音響を轟(とどろ)かせながら氷のプレートが割れ、激突する。その度に山脈が高くなる。

 「それが氷上を這(は)う龍のように見えた。はるか昔の人々は『湖の主は龍だ、龍に違いない』と思う。で、流れ出る川に天竜川という名がつけられたと思うんですよ」

 宮坂さんは同市小和田にある八剱(やつるぎ)神社の宮司も兼ねている。この社は「御神渡(おみわた)り」の認定をすることで広く知られてきた。宮坂さんによると、御神渡りとは「諏訪の神が氷上を渡った跡」。御神渡りが出現したかどうか、宮坂さんらは毎早朝に諏訪湖まで足を運んで観察を続けた。

 成長した小山脈が5季ぶりの御神渡りと確認されたのは2日後の2月1日だった。

 御神渡りと認定されるには「龍の道」が3本要る。諏訪大社の上社がある諏訪市から下社のある下諏訪町に走る道が2本、それと直角に交わる道が1本。途中で消える道があってもOK。過去の文献にもそう記されている。

 龍が這った道と大社の立地には深い関連がある、と宮坂さんはみる。「(龍の道の)起点と終点に祭りの宮を設けた。それが諏訪大社の上社、下社のゆかりになったのかなと。想像ですけどね」

 諏訪市に生まれた宮坂さんは、岡谷市の岡谷南高校に進んだ。卒業するとき、宮司だった父親の後を継ごうと決める。国学院大学の神道学科で学び、京都の伏見稲荷大社に奉職。諏訪大社を経て2000年に手長神社宮司となる。八剱神社の宮司はその前、1985年から務めてきた。

 御神渡りが初めて文献に出るのは約900年前の平安末期。特筆されるのは観察記録で、1443年から「当社神幸記」「御渡帳」「湖上御渡注進録」と名を変えながら今に続いている。実に575年間、宮坂さんは「1年も切れていません」。

 575年のうち、御神渡りが出現しなかったのは75年。八剱神社は未出現の年を「明けの海」と表現する。温暖化のせいかどうか、平成以降は3分の2の年が「明けの海」と記録されている。

悲劇を越えて、解き明かす

 御神渡りを書くならこの人に会わねばなるまい。

 諏訪湖畔から松本空港に走り、…

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