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教えて!憲法 基本のき:8

 日本国憲法が施行されて71年。なぜ、この間、改正されなかったのだろうか。

 一つは、憲法がさだめる改正手続きのハードルの高さだ。

 憲法改正は国会が国民に提案(発議)するが、衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成が必要だ。さらに、改正が承認されるには、国民投票で有効投票の過半数の賛成を得なければならない。衆参両院で出席議員の過半数の賛成があれば改正できる法律とくらべると、きびしい手続きだ。

 戦後、自民党がめざす改憲で一致する勢力が衆参両院で3分の2以上を占めたこと自体が少ない。歴代の自民党政権は「現行憲法の自主的改正」をかかげ、本丸を9条とみさだめつつも、憲法改正は具体的な政策課題にならなかった。自衛隊の活動範囲をひろげるときは、新しい理屈をつくって9条を拡大解釈することで対応した。

 その意味では、さしせまった改憲の必要性がなかったといえる。だから、国民投票のしくみなど、改憲の具体的な手続きをさだめた法律も、長い間つくられなかった。国民投票法ができたのは、憲法施行から60年がたった2007年になってからだ。

 憲法が改正されなかった理由のもう一つが、憲法が基本的人権の保障という、多数決によってすらうばうことのできない理念・原則を書きつつ、国のあり方については、こまかい話を法律にまかせたことにある。国会法や内閣法、地方自治法といった憲法付属法のことだ。

 これらは、新たな変化に対応するため、たびたび改正された。憲法にあたる基本法を約60回改正したドイツで、その多くが国と地方の権限に関する条文だったことに照らせば、連邦制のドイツとは国のなりたちこそ違えど、日本でも実質的には憲法が改正されていたという見方もできる。

 1789年以後に制定された各国の憲法をしらべた東京大のケネス・盛・マッケルウェイン准教授によると、各国の憲法の英訳版の語数は平均2万1千。日本国憲法は4998で、その4分の1ほどだ。100回以上憲法を改正したインドは約14万6400だったという。

 憲法にこまかく書くほど、変化に対応するには改正が必要になるというわけだ。

 日本では、憲法ができた当初は想定していなかった「新しい人権」も改正をへず、既存の条文に読みこむことでみとめてきた。たとえば「プライバシー権」や「知る権利」だ。憲法がこまかい規定を置いていないぶん、裁判所が判例を積み重ねることで、人権の解釈を広げてきた。

 憲法改正というとき、対象になるのは前文と103条からなる憲法典だ。しかし、わたしたちが憲法を考えるとき、憲法典だけでなく、憲法付属法や判例、政府解釈のことも知っておく必要がある。憲法改正を承認するかどうかをきめるのは、主権者であるわたしたち国民だから。(磯部佳孝)

     ◇

 〈新しい人権〉 憲法は権力によって規制されてきた権利や自由を列挙する形で個別の人権規定を置いている。ただ、憲法制定後の社会情勢の変化などで、憲法制定時には想定されていなかった人権侵害が生じるようになった。そこで「新しい人権」として憲法で保障すべきとの議論がある。環境権、知る権利、犯罪被害者の権利、忘れられる権利などが代表例だ。一方、新しい人権は25条の生存権や包括的基本権と呼ばれている13条の生命・自由・幸福追求の権利から導き出せるため、書き加える必要はないという指摘もある。

 〈判例〉 裁判の先例のことで、裁判所が特定の訴訟事件に対して下した判断。同種の事件を裁判するときの先例となる。憲法76条は、裁判官は憲法および法律にのみに拘束されると定めている。ただ、同じような事件について、裁判所ごとに判断がことなることは、国民の法秩序への信頼をそこなうことにつながる。このため、裁判所は同種の事件について、ほかの裁判所の判断がある場合には、参照できる。特に、最高裁判所の判決が存在する場合には、これらの判決は先例として後の判決に拘束力を持つといわれている。

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