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 子宮頸(けい)がんの原因となるウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の有効性と安全性をめぐる評価や、接種の積極的勧奨を再開すべきかどうかは、専門家の間でも様々な意見があります。4人の専門家に聞きました。

佐々木征行・国立精神・神経医療研究センター病院小児神経診療部長

 HPVワクチンをめぐっては、持続する痛みや、手足の動かしにくさ、記憶力や注意力の低下など、接種後に多様な症状が報告されたことが、一つの特徴です。ワクチンとの関連をどう考えたらいいのでしょうか。接種後に症状を訴える患者を診療した経験をもつ、国立精神・神経医療研究センター病院の佐々木征行・小児神経診療部長に聞きました。

副反応との関連、証明も否定もされていない

 これまで50人近く、HPVワクチンの接種後に症状を訴える患者さんを診察しました。接種後、激しい痛みが起き、腕が上にあがらないほどになる人や、頭痛や倦怠(けんたい)感などを伴う人もいました。痛みが注射した部位だけでなく全身に広がるケースや、震え、記憶力や集中力が低下するケースもありました。こうした多様な症状が、様々な組み合わせで、長い期間継続している人もいて、症状の経過の長さ、症状が移り変わることも、従来のワクチンではあまり見られなかったものだと思います。

 私たちは数人の患者さんに入院していただき、頭部MRIや筋肉の検査(MRIや筋生検)をしました。筋肉注射をした部位や体内に過剰な免疫反応が現れていないかを確認するためです。また、鎮痛剤による治療のほかに、過剰な免疫反応が起きている可能性を想定し、それを抑えるために、免疫グロブリンを静脈注射する「免疫グロブリン静注療法」、あるいは、大量のステロイドを投与する「ステロイドパルス療法」も試しました。

 しかし、筋生検などの検査では特別な異常を見いだせず、薬物療法でもはっきりした効果はありませんでした。ほかの病院から特別な検査所見が確認されたとか、目覚ましい治療があったとかの話も聞いていません。

 ワクチンを接種されたときに感じた強い痛みが、その後の体調不良を引き起こしている可能性はあると思います。全身に痛みが広がる「線維筋痛症」や、頭痛や疲労感が前面に出る「慢性疲労症候群」などと病態が似ているケースもあります。二つとも原因不明の病気ですが、何らかのウイルスに感染した後に発症が多いことも知られていて、共通するメカニズムが発症に関わっている可能性も否定はできません。

 しかし、いまのところ、こうした多様な症状を説明できる客観的な検査上の所見は乏しいのが実態だと思います。ワクチンの接種で強い免疫反応が起き、こうした症状につながっているのではないか、という説もありますが、いまのところ、免疫学的な異常を示す明確な証拠はないと思います。

 こうした実情を踏まえると、報告されている副反応とワクチンとの因果関係については、いまの時点では「証明されてもいないし、否定されてもいない」としか言いようがありません。

認知行動療法でよくなる場合も

 ただ、こうした症状を訴えて受診してくる人は、このワクチンが導入される前からいました。また、ワクチンの積極的勧奨が差し控えられ、ほとんど接種されなくなった後でも、います。やはり明確な原因がわからないケースがほとんどです。

 こうした患者さんに対しては、じっくりと話を聴いたうえで、原因を追及することをいったん脇に置き、「改善するためにはどうしたらいいか」を一緒に話し合います。原因がはっきりしないので、薬を使ってもなかなか治りづらい。最近は、考え方のくせや偏りに着目し、医師らとの面談を通して改善をめざす「認知行動療法」につなげることが多いです。この治療を通じ、改善していくケースは珍しくありません。

 結局、ワクチンが原因でもそうでなくても、こうした症状に苦しむ患者さんは常に存在する。原因にこだわるよりも、本人や家族を支えるような治療が何よりも大切だと、私は思います。

希望する人が接種、「任意」でも

 このワクチンは、子宮頸がんの原因となる特定のウイルスへの感染を防ぐとされています。がんになる前の状態(前がん病変)が減ったという報告が複数あるということなので、有効性はきっとあるのだろう、と考えています。理論的には、その先にあるがんの発症も減ると期待されると考えます。一方、接種後に報告されている多様な症状との因果関係は、証明もされていないけど、否定もされていない。

 この場合、ワクチンを接種すべきかどうかは、なかなか言いづらいと思います。接種したほうがいい、とも、しないほうがいい、とも私自身は言えません。

 どのワクチンにも有効性とともに、副反応はあります。それでも、いま定期接種されているほかのワクチンは、非常に高い効果が期待できる一方、「小さいけれどもリスクはある」ということを承知のうえで、受けてもらっている形になっています。これに対し、HPVワクチンはいまの時点では、それが承知された状況にはなっているとは言えません。

 そういう意味では、基本的に希望する人が接種するワクチン、つまり、「任意接種」の扱いでもいいのでは、とも思います。とはいえ、任意接種になれば、原則無料の定期接種と異なり、自己負担になってしまう、という問題も残るのが難しいところです。

誰にでも起きうる 治療体制の整備を

 HPVワクチンの接種後の症状で苦しんでいる人がいる以上、きちんと向きあっていくべきだと思います。米国や英国では、こうした訴えをする患者さんに対する治療体制など、医療的な配慮が行き届いていると言われています。日本でも、これまで以上に、こうした患者さんにどんな医療が提供できるのか、を考えていかないといけないでしょう。個々の医師の活動だけでは治療は難しく、専門的な治療チームで、体制の充実を図っていく必要があります。

 接種後に症状を訴え、私のところを受診した患者さんは、ワクチンの接種前は学校をほとんど休むこともなく、部活動にも積極的に参加し、元気な子が多かったと聞いています。頻度が非常に低いとはいえ、誰にでも起きうるものだと思います。

 治療体制の充実に加え、今後、新たに同様の症状に苦しむ人をなるべく出ないようにするためには、ワクチンを受けない選択が尊重されることも必要だと思います。接種後の痛みが軽減されるようなワクチンの改良にも期待しています。また、子宮頸がんの予防には、検診も重要です。若い女性の検診受診率を上げるためには、検診をする側の医療者を、可能ならば女性にする。それだけでも、少しは変わるのではないかと思います。

     ◇

〈ささき・まさゆき〉 1957年生まれ。日本小児神経学会専門医。新潟大卒業。新潟大学病院小児科などで研修後、2002年から現職

 

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