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 子宮頸(けい)がんの原因となるウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の有効性と安全性をめぐる評価や、接種の積極的勧奨を再開すべきかどうかは、専門家の間でも様々な意見があります。4人の専門家に聞きました。

川名敬・日本大主任教授(産婦人科学)

 日本産科婦人科学会は、HPVワクチンの有効性を高く評価し、厚生労働省に対して積極的勧奨を再開するよう求めています。子宮頸(けい)がんの患者を日常的に診察する立場から、この問題をどうとらえているのか。ウイルス学にも詳しい、川名敬・日本大主任教授(産婦人科学)に聞きました。

立ち止まる。大事なステップだった

 このワクチンの安全性に問題があるかもしれない、との指摘が2013年に出てきたとき、それに対して国としていったん立ち止まって検証するという作業は、結果的に必要だったと考えています。その作業がなされなければ、国民は納得しないでしょう。

 ワクチンは2007年に初めて人に接種され、日本ではそこから2年ほどで承認されました。従来のワクチンに比べ、非常に早かった。つまり、長く広く使われるという歴史を経たワクチンではありませんでした。ですから「安全性をもう一度チェックしよう」となったことは、大事なステップだったと思います。

 問題は、そのまま積極的勧奨が止まり続けていることです。厚生労働省研究班で調査もし、接種後に問題とされた症状が、接種しない人にも起きる、という結果も出ました。もうさすがに、ワクチンの必要性を認めてほしいというのが、産婦人科医としての率直な意見です。

安全性評価には、データが不完全

 接種後に起きている有害事象の報告は、確かにほかのワクチンよりも多いです。ただ、そのなかには因果関係のはっきりしない、「紛れ込み」も含まれています。また、その記録をみると、接種日が「不明」とされているものが数多く含まれています。正確に安全性を評価するには、あまりにも不完全なデータです。可能なら、厚労省はこの「不明」を調べて、明らかにしてほしい。そのうえで、議論されるべきだと思います。

 接種後の長引く痛みなど、厚労省が「機能性身体症状」(何らかの身体症状があり、その身体症状に合致する検査上の異常や身体所見が見つからず、原因が特定できない状態)と呼んでいる症状は、HPVワクチンに限らず、ワクチンには一般的に起きるものと、考えられています。そして、それは思春期には顕在化しやすい。

 「ワクチンを接種して何も起きないか?」と尋ねられれば、ほかのどのワクチンも同様ですが、「絶対に安全」と断言することはできません。しかし、「副反応の疑い」として報告された人たちのその後を追跡調査した結果では、9割の人は回復したことが判明しています。でも、その事実はきちんと伝わっていないのではないかと思います。この5年近くで、接種後の症状の診療にかかわる医療機関も全国に設置されました。

積み重ねられているワクチンの有効性

 一方、ワクチンの有効性は国際的にも科学的根拠(エビデンス)が積み重ねられています。

 HPVは100種類以上あり、性交渉を通じて感染します。このうち、子宮頸がんも含む複数のがんの原因となる「ハイリスクHPV」と呼ばれるものは13種類。HPVワクチンは、このなかの「16型」「18型」の2種類の感染を予防するものです。海外の研究では、ワクチンによってこの2種類の感染を約9割防ぐことが明らかになっています。

 「ワクチンが、がんそのものを防ぐ効果は確認されていない」と指摘されます。しかし、オーストラリアなどの研究では、ワクチン接種した人では、していない人に比べ、がんの前段階の状態(前がん病変)を5割減らす効果が確認されています。まだ導入されて間もないワクチンでもあり、がんそのものへの予防効果は、もう少し時間をかけてみないとわかりませんが、そもそもがんに進行するようならば治療されてしまうため、がんの予防効果を立証することは難しいのが実情です。でも、前がん病変を減らすのですから、その先のがんになることもない、と考えられます。そして、ごく最近、海外の専門誌「International Journal of Cancer」に掲載された速報として、フィンランドからがんそのものが減少した、との報告も出ました。14~19歳の女性(計約2万7千人)を7年間追跡した結果、子宮頸がんを発症する頻度は、ワクチン非接種群は10万人あたり年間6・4人であったのに対し、ワクチン接種群では同0人でした。

 成人女性の大部分がHPVに感染します。女性の誰もが子宮頸がんになるリスクがありますが、ワクチンでこのリスクを減らせるのです。

ワクチンと検診、子宮頸がん予防の両輪

 「がん検診を受け、進行するようならば手術すれば治る。だからワクチンは必要ない」という人もいますが、私はそうは思いません。検診はもちろん重要です。でも、手術は子宮にメスを入れることを意味します。しかも発症年齢のピークは30代です。ちょうど、妊娠・出産の時期にあたります。子宮の一部がなくなり、その結果、早産のリスクが2・6倍高まることがわかっています。

 子宮頸がん予防は、ワクチンと検診の両輪が必要で、どちらか一方でいい、ということはないのです。

 1月に、東京都内の女子高の3年生(約200人)に対し、子宮頸がんについて授業をしました。厚労省の資料によれば、「10万人にあたり52人」が重篤と判断された有害事象の報告数です。これをこの高校にあてはめると、「2千人に1人ほど」。1学年200人なので、10学年に1人ぐらいにしか健康被害は出ません。

 一方、生涯で子宮頸がんになるリスクは「76人に1人」とされています。1学年200人の女子がいれば、うち3人ぐらいが生涯のうちに子宮頸がんになる計算です。「この数字を比較したとき、どちらを選択しますか? あとはみなさんが決めてください」。私はそう問いかけました。最終的にはそれぞれの判断ですが、おのずと答えは出るのではないかと、思います。

 もちろん、怖いし、うちたくないという人は、うたなくていいと思います。定期接種は接種する「努力義務」はありますが、強制ではありません。

 今後、積極的勧奨を再開すると判断することがあれば、厚労省に対して注文があります。この間、接種を見送り、定期接種の対象を過ぎてしまった人への接種は、無料でできるようにサポートする必要があります。このワクチンは3回接種で5万円ほどかかります。それが出せない家庭はいくらでもある。希望したのにお金がなかったからうてなかった、ということはないようにしてほしい。ぜひ、国の責任で不平等が生じないようにしてほしいと考えています。

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〈かわな・けい〉 1967年生まれ。東北大卒業。産婦人科専門医、性感染症認定医。米ハーバード大産婦人科リサーチフェロー、東京大産婦人科学講座准教授などを経て、2016年9月より現職

 

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