【動画】宮崎駿監督が幼少期に暮らした家が、ギャラリーになっている=毛利光輝撮影
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 アニメーション映画監督の宮崎駿さん(77)が幼少期に住んでいた宇都宮市の古民家が、空襲を逃れて現存し、焼き物や染め物などを展示販売するギャラリーとなっている。この家の繊細な造りは、映画「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」などの場面をほうふつとさせる(動画でご覧になれます)。家の独特な雰囲気に作品が引き立てられ、リピーターとなって訪れる人も多い。

 JR宇都宮駅から車で10分ほど。宇都宮市役所近くの路地裏に、築約90年の木造2階建てがある。門構えから、年月を重ねた木の色合いに魅了される。「ガラガラ」と戸を開ける音も、どこか懐かしい。

 宮崎さんは戦争中、宇都宮に疎開し、小学3年生まで住んでいた。1945年の宇都宮空襲で多くの家が焼失するなか、この家は免れた。その後、現在の所有者の親族が購入したという。

 大家が「家が傷まないように」と借り主を探していたところ、住まいを求めていた栃木県鹿沼市出身のトーマスあす子さん(40)と出会った。トーマスさんは宮崎さんが住んでいたことは知らなかったが、丁寧な造りにひかれた。大家から「店舗としても使ってほしい」と要望され、勤めた経験のあったギャラリーを2012年2月にオープンした。

 高い天井に、家紋が入ったガラス。意匠を凝らした欄間に、松がそびえる庭園。昭和初期に建てられた趣が残っている。1階の洋風の部屋と和室を展示スペース、2階を来場者向けの休憩室にした。全国を回って出会った作家の企画展を月1回のペースで開いている。

宮崎さん「とても大事な場所」

 宮崎さんの原点を探った映像が収録されているスタジオジブリ制作のDVDでは、この家の急傾斜の階段が登場する。「となりのトトロ」でサツキとメイが「まっくろくろすけ出ておいでー」と叫び、階段を上る場面と、家の階段が似ていると紹介している。

 「風立ちぬ」の主人公の生家も、「栃木県の家のイメージを反映している」とジブリ責任編集の本に書かれている。

 また、2階から眺める東武鉄道の電車が走る光景は、「千と千尋の神隠し」の電車が走る場面を想起させる。

 記者は、オープン1年後の2013年2月にギャラリーを初めて取材した。その際、宮崎さんがどんな思いなのか、事務所にコメントを依頼した。当時は「風立ちぬ」の公開を夏に控え、多忙だろうと想像していたが、翌日にコメントが届いた。

     ◇

自分にはとても大事な場所です。

あの家と庭の光と影がぼくの何かを形成してくれたのだと思っています。

いつか訪ねてみたいですね。

宮崎駿

     ◇

 その後、宮崎さんは1人、お忍びでギャラリーを尋ねてきたという。ちょうど休みの日で、トーマスさんは家を案内し、宮崎さんから当時の思い出をたくさん聞いた。いまも家が残っていることがうれしそうだったという。

作家と来場者が交流する場に

 オープンから6年。「宮崎監督の家」を目当てに人が押し寄せた。作品を見ずに家の中を撮影して回る人もいた。

 ギャラリーの名は「絆和」と書いて「ハンナ」。作家自ら作品の思いを伝える場として、作家とお客さんの心の絆を結びつけたいという思いから名付けた。だが、トーマスさんは、作品よりも家に注目が集まり、ギャラリーとしてふさわしい場所ではないのでは、と思い悩む日々が続いた。

 それでも、展示を重ねるにつれ、作家とお客さんのあいだに交流が生まれた。ギャラリーとは縁遠かった人も、作品を手にとる楽しみを覚え、リピーターが増えてきた。

 トーマスさんは「この家がつなげてくれたものは最終的には人になっている」と前向きに捉えるようになった。トーマスさんは言う。「ここは特殊な空間で、作品の邪魔をしないし、むしろ作品を引き立てる。ここでしかできないことをやっていきたい」

 ギャラリーは展示期間中のみ出入りできる。10人以上の団体客は断っている。2月はコーヒーに合うカップなどをそろえた企画展「巡るこ~ひ~展」を開催中。宇都宮市松が峰2の7の17。詳細はホームページ(http://galleryhanna.com/別ウインドウで開きます)へ。(毛利光輝)