拡大する写真・図版 伊予銀行が始めた電子通貨の実証実験。和菓子店のQRコードをスマホで読み取る=15日、松山市、伊藤弘毅撮影

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 限られた地域や共同体のなかで使える「電子地域通貨」の導入の動きが目立ってきた。電子化が進んでコストが軽減され、スマートフォンひとつでサービスの支払いができるようになったためだ。かつてもブームが起きた地域通貨だが、今回は定着するか。

酒蔵と銀行がコラボ

 全国有数の酒蔵が集まる「灘五郷(なだごごう)」。そう呼ばれる神戸市から兵庫県西宮市にまたがる地域で今月、りそな銀行と酒造メーカー10社による電子通貨の実証実験があった。抽選による100組200人が酒蔵を訪れ、日本酒や酒かすから作った化粧品などを購入していく。参加者には事前に2万円分の電子通貨が贈呈されていて、支払いはスマホを提示するだけで済んだ。

 参加した大阪府枚方市の会社員、岩橋千佳さん(50)は「これまで財布やクレジットカード以外の支払いは不安だったが、すごく便利。今後も使ってみたい」と話した。

 愛媛県を地盤とする伊予銀行は15日から松山市内で、「IYOGIN Co-in」を使った約3カ月間の実証実験を開始。本店に勤める行員約320人が、飲食店での支払いをスマホだけでできる。千葉県木更津市でも、市内で使える「アクアコイン」の導入準備が進む。地元の君津信用組合などと連携し、3月下旬からの実証実験には地元の約100店と市職員ら1200人の参加を見込む。

 こうした限られた地域での電子通貨は、「ビットコイン」のような仮想通貨とは違い、交換所での取引はできず、円と同じ価値に設定したものがほとんどだ。法的には商品券やプリペイドカードと同じものに位置づけられ、購入額より使える額を多くしたり、ポイントをつけたりといった特典があるのも特徴だ。

 使い方としては、スマホ上にダウンロードしたアプリで入金の手続きをし、円を電子通貨に「換金」するのが一般的。実際に商品などを買う場合は、レジに置かれたQRコードを読み取ってスマホから店に通貨を送る手続きをしたり、スマホ画面を店の専用機器で読み取ったりして支払う。

 飛驒信用組合(岐阜県高山市)は昨年から、地元の飲食店や商店などで使える「さるぼぼコイン」のサービスを始めた。2016年から実験を重ね、いち早く商用化にこぎ着けた。利用者や加盟店同士で「送金」もできるしくみだ。

利用者獲得がカギ

 国内では00年ごろから、中央銀行が発行する円など「法定通貨」と異なり、団体や個人が独自に発行する「地域通貨」が続々と誕生した。紙幣や小切手などの形で、地元にお金を落として地域を盛り上げることをねらった。

 ただ、これまで約900の地域通貨が発行されたものの、「できて5年間生き残ったのは40%程度」(三菱総合研究所の奥村拓史主席研究員)。通貨をつくるコストや管理・換金の手間がかかりすぎたためで、「『もう二度とやりたくない』という声がほとんど」(地銀の関係者)だった。

 そんな状況を変えさせたのが、金融とITを融合させる「フィンテック」企業の存在だ。伊予銀、飛驒信組、君津信組は、IT企業アイリッジ(東京)のサービスを使って電子地域通貨を提供する。必要なコストは、こうしたIT会社への使用料くらいで済むため、参加店側の費用もクレジットカード利用などと比べて安い利点がある。伊予銀の実験に参加する老舗和菓子店「ひぎりやき」を運営する沢井本舗の沢井善一郎社長(45)は「キャッシュレス化を進めたかったが、費用面が壁だった」と今回の試みに期待する。

 地方の店舗はアマゾンなどのインターネット通販に客を奪われつつある。とくに地域に根ざす金融機関は自らの事業範囲と重なるため、電子通貨に注目する。

 さらに、利用者の年齢や購買動向などのデータを分析し、新たなビジネスにつなげたケースも出ている。長崎県の離島では、観光客向けの「しまとく通貨」の利用データから来訪者が1回の旅行で複数の島を訪れる傾向があるとわかり、新しいツアーを旅行会社と開発。担当者は「今ではほぼ全ての旅行商品が、しまとく通貨の利用を軸に据えたものになった」という。

 地域に定着するかどうかは、いかに利用者を増やすかにかかる。飛驒信組のさるぼぼコインは、商用化後2カ月余りでチャージ金額が計9千万円。3月末までに20億円とした目標にはほど遠い。口座やクレジットカードでチャージできるようにしていくという。

 三菱総研の奥村氏は「いかにお得な特典をつけられるかも重要だ」と指摘する。(伊藤弘毅、筒井竜平)