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 ホワイト企業と呼ばれる会社がある。社員を酷使するブラック企業の対極だ。社員が生き生き働くそんな会社を顕彰しようとソニーOBの土井利忠(筆名・天外伺朗(てんげしろう))さんが、ホワイト企業大賞を設けて普及、啓発する運動に取り組む。

 1月、東京都内のホテルで第4回ホワイト企業大賞の表彰式があった。大賞に選ばれたのは3社。その一つ、携帯電話販売支援「ピアズ」の桑野隆司社長(41)は携帯販売員から出発した「たたき上げ」。「お客や社員を大事にする利他の心」が評価された。

 携帯販売の現場はノルマに追われ、離職者が多い厳しい職種といわれる。値引きとキャッシュバックで売ってきたが、総務省の指導で極端な値引きはできない。そこで桑野さんは「ゴリ押し商法を改めよう」と、お客目線で応対できる販売員の育成に乗り出した。いま、そんな営業手法を教える携帯販売コンサルタント業を営む。「人を大事にすると、業績も向上します」と桑野さん。

 ソニーでコンパクトディスク(CD)やイヌ型ロボットのアイボ開発にかかわった天外さんは2006年に退社後、人間性重視の経営を提唱する「天外塾」を主宰。ブラック企業大賞とは正反対のホワイト企業大賞を14年に設けた。「ソニーを含め米国流経営を導入する大企業はみな失敗した。社員に権限を渡し、人間重視の日本経営の方が世界の手本」と語る。

 第3回大賞で特別賞を受賞した広島県尾道市の飲食業「いっとく」の山根浩揮社長(43)は古着店から始め、いまや15の飲食店を経営する。山根さんは「飲食業は長時間労働でハードワーク。決してホワイトではない」と、表彰式への出席を辞退したほど。評価されたのはそこではなかった。

 風情ある街並みが残る尾道も商店街は空き家が目立ち、趣のある建物が次々壊されてしまう。いっとくは空き家再生を掲げ、古い家を外国人客も来るしゃれたものに改装。後継ぎのない焼き鳥屋を譲り受け、秘伝のタレも引き継いできた。

 昨年、蔵のある家の買収をためらううち、開発業者に先を越され更地にされてしまった。それで「スイッチが入った」と言う。「良い場所が良い使われ方をしないと街づくりができないんです」と。

 創業170年余、江戸時代から続く老舗「たこ梅」は大阪・道頓堀のおでん店。第4回ホワイト企業大賞の特別賞を受賞した。

 5代目の岡田哲生社長(51)は先代が亡くなり、大企業のサラリーマンを辞めて継いだ。赤字の店を、会社員時代に培った営業・宣伝戦略で再生させ、てんぐになった。「従業員には『考えるな、言われた通りにやれ』と命じました」。だが08年のリーマン・ショック後、売上高は下降に。自信はくじかれた。

 悶々(もんもん)とする日々、たまたま店のカウンターに祖父、父、孫の3世代で座るお客を見て「あ、俺はこれするんやった」と悟った。世代をまたぐ客をつくり100年後も店を続ける。それは先代の教えでもあった。

 「使命はわかったが、どうすればできるんかわからん」。従業員の創意工夫が大切と考え直した。それによって従業員と客との関係が変わり、売り上げは復調。岡田さんはいま「たこ梅は学校みたいなもん」と言う。

 天外さんはホワイト企業を「社員の幸せと働きがいと社会への貢献を大切にしている企業」という。大きく定義し、評価基準を設けないことで間口を広くした。「表彰はゴールじゃないんです。学習し、進化し続けることが大事なのです」。ハウツー本で解答は見つからない。経営の道を探る試みは永遠に続く。(大鹿靖明)