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 子ども医療費の無料化が広がっている。かつては富裕自治体のサービスが目立ったが、無料化は今や全自治体に広がっている。いま、通院費では「中学生まで」と「高校生まで」助成するケースが8割に達する。子育て世帯のつなぎとめ策だが、過剰医療の懸念もある。

・子育て支援策として有効か

・子どもの健康にプラスばかりか

・医療費の膨張は許容できるか

 自治体が居住する子どもの医療費の自己負担分を助成するサービス。通常、医療費では、就学前で2割、小学生以上で3割を患者が自己負担するが、自治体が肩代わりしていることが多い。自治体によって、親の所得制限や一部負担金を設けているところもある。

× 矢嶋茂裕さん(小児科医)「低いコスト意識 過剰医療も」

 子どもの医療費の無料化対象を自治体が競って広げているような現状は、行き過ぎだと思います。無料であるがゆえに、一部の患者は過度に受診し、過剰な検査・投薬をしている医療者もいる。それが、公費負担の増大を招いているからです。

 無料だからと、軽症でも夜間・休日を問わずに受診する「コンビニ受診」を生んでいます。地方では少子化が進んだため減りましたが、全国的にはまだ安易な受診も指摘されています。自宅でも対応できる鼻づまりの対処や、薬局で買えるハンドクリームのような薬を処方してもらうために、子どもを漫然と医者に通わせ続ける方もいます。自己負担はゼロでも、費用は保険料と税金で支払われます。

 受診回数の問題以上に気になるのは、自己負担がないからと、健康のためには必ずしも必要とは思えない医療が野放図に行われる面があることです。たとえば、「念のため」のCT検査は1回でも放射線被曝(ひばく)の影響は無視できませんし、超音波検査も安易に行われている可能性があります。思春期に少し背が伸び始めるのが遅いだけで「低身長」と診断し、月30万円ほどかかる成長ホルモン投与をした例も。費用と効果、リスクのバランスがとれていないのです。

 本当に子どもの健康を考えるなら、むしろ予防に費用をかけるべきです。新生児が精密な健診を受けられるようにすれば、病気の予防や早期発見につながる。子どものためになり、医療費も減らせると思います。

 子育て支援策としての優先度も考える必要があります。例えば、給食無料化なら、無料でも食べる量が大幅に増えることはなく財政負担額は見通せます。ところが、医療費が無料になると、利用が増え、予算額はどんどん膨張しがちです。

 にもかかわらず、子どもの医療費無料化が拡大されてきた背景に、自治体間の宣伝合戦があった面は否めません。そして、一度広げた無料化を見直すのは政治的に難しい。だからこそ、私は、医療者が声を上げる必要があると思います。もちろん、就学前の幼児の医療費無料化で、貧困家庭の受診控えを防いだり、診察を通じて育児を指導したりすることはあっていい。自治体の差をなくすために、国が全国一律に就学前まで無料としてもいいのかもしれません。ただ、それ以上の年齢の子どもへの助成は見直すべきです。

 コスト意識を高めることも重要です。無料は維持しても、いったん自己負担してもらったあとで還付するのが効果的です。

 英国は医療費は無料でも受診までに時間がかかり、米国は受診はできても医療費が高い。それに比べ、日本は受診しやすい上に、医療費負担も軽い。悪いことではありませんが、たとえば医者の再診料は720円でも、薬局で2種類の軟膏(なんこう)を混ぜる費用が800円かかる場合があるといったことを、どれだけの人が知っているか。一度は自己負担するようになれば、各自がもっと医療費について考えるのではないでしょうか。

 子どもの医療は決して「ただ」ではありません。公費が使われ、多くは借金で賄われています。そして将来、その借金を利子をつけて返していくことになるのは子どもたち自身なのです。そのことをもっと自覚し、本当に必要な時期・対象以外の方には、きちんとコストを負担していただく必要があると思います。(聞き手・吉川啓一郎)

 <やじま・しげひろ> 1958年生まれ。日本外来小児科学会理事。高山赤十字病院小児科部長を経て矢嶋小児科小児循環器クリニック(岐阜市)院長。

○ 森山一正さん(大阪府摂津市長)「子育て世帯争奪 支援は必須」

 大阪府北東部にある摂津市の面積は14・87平方キロメートルしかなく、多くのマンションが建てられる環境ではありません。限られたスペースで市がどう生き残るかを常に考えています。

 人口は約8万5千人。工業都市として発展した経緯もあり、工場労働者や共稼ぎの世帯が多い。子育て支援に力を入れるのは、人口減社会のなかで、都市の活力を失わないためです。

 市の子ども医療費無料化は1973年に始まりました。0歳児から段階的に年齢を引き上げたり、所得制限をなくしたりしてきました。最近の課題は子どもが成長するにつれて、近隣の吹田市や大阪市に転出するケースが目立っていることです。

 そこで、今年4月からは18歳までの通院・入院にかかる費用を無料にします。2回までは500円の自己負担金はあるものの、所得制限はありません。さらに、1人親世帯で大学や専門学校に在学する人については、22歳まで医療費無料の対象にすることも決めました。

 国の補助金や借金である市債に頼っている市財政で、無料化を拡大するのはモラルハザードにならないか、ですか? 市長就任後、私がまず優先したのは財政再建です。2002年度に経常収支比率が全国の市でワースト2位となるほど財政が悪化していました。市職員や公共工事の削減などの行政改革で財源を捻出した後、段階的に医療費無料の対象を拡充しました。

 市の18年度の一般会計当初予算案総額338億円のうち、医療費無料分は3億3千万円余りで、それほど大きな額ではありません。最近は20代~30代の子育て世帯に、保育所の整備率の高さなど市の幅広い子育て支援策が受け入れられている。人口1千人あたりの出生率は9・8人で、府内でトップです。

 無料化の拡充は安易な受診を招くとの批判も聞きます。ただ、いまは子どもがどんどん減り、自治体が子育て世帯を奪い合っている状態です。すでに府内では摂津市以外に4市3町が18歳までの無料化に踏み切っています。間髪入れず施策をうたなければ、後れをとります。

 市の国民健康保険ベースに限ってみれば、子どものレセプト件数は無料化の後でも急増しておらず、安易な受診が増えているとは言い切れません。子どもはちょっとした変化で受診することで早期発見につながることもあります。長期的に見れば医療費は減ることになります。

 かつて「高齢者向け」を無料化して医療費が膨張した歴史はわかりますが、「子ども向け」を同列視するのは筋違いです。医療費増は悪、と決めつけるのは、厚生労働省の発想です。

 18歳までの子どもの医療費と学費は本来、国が負担するべきものです。市町村は国に代わって医療費を助成してきたといえます。にもかかわらず、国は市町村が国以上の水準のサービスをすると、国民健康保険の補助金を削減するというペナルティーを科してきた。医療費助成が全国に広がったことを踏まえ、今年4月からは未就学児までの助成に対するペナルティーは廃止になりましたが、全ペナルティーを廃止すべきです。

 医療費無料化などの子育て支援で大切なのは、市民に定住してもらい、将来はお返ししたいと思ってもらうことです。助けられた人が、今度は税金を納めて別の人を助けてくれれば、投じられたお金も生きることになります。(聞き手・日浦統)

 <もりやま・かずまさ> 1944年生まれ。住宅メーカーに勤めたあと、25歳で摂津市議に。大阪府議、府議会議長を経て、2004年より現職。現在4期目。

 

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