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池上彰が歩く韓国

 南北朝鮮を分断する非武装地帯には、手つかずの自然が広がっていた。

 平昌冬季五輪と呼ばれるが、スケート会場は、平昌から車で40分ほど離れた江陵(カンヌン)市に点在している。その市内にある小さな美術館で非武装地帯をテーマにした写真展が開かれている。

 朝鮮半島は38度線で分断されているという言い方がされるが、厳密には軍事境界線で分断されている。もともと韓国と北朝鮮は北緯38度線を国境にして建国されたが、朝鮮戦争の結果、両軍がにらみ合う戦線を「軍事境界線」とし、南北2キロを非武装地帯にしている。中に軍事施設を建設したり、兵士が入ったりしてはいけないことになっている。そこで両軍は、非武装地帯の外側に地雷を敷設したり、鉄条網を張ったりしている。

 軍事境界線周辺は軍事機密だらけ。一般人は近づけないが、写真家で詩人の崔秉寛(チェビョングヮン)氏(67)は、韓国陸軍の特別の許可を得て、多数の写真を撮影した。

 今回、江陵市は、冬季五輪に合わせ、訪れる人たちに非武装地帯について知ってほしいと崔氏の写真展を企画した。というのも江陵市の緯度は北緯37度45分。38度線に近く、朝鮮戦争中は海から北朝鮮軍の攻撃を受け、有数の激戦地になったからだ。

 ここに北朝鮮の応援団がやって来たのだから、時代が変わったというべきか、「平和の祭典」にふさわしいというべきか。

 展示されている写真の数々に共通しているのは、手つかずの自然の美しさ。なにせ休戦が決まってから60年間、人間の活動が行われていないからだ。

 それでも険しい尾根の先端に韓国軍兵士の監視塔が立つ写真を見ると、戦争は終わっていないことを知らされる。

 場所によっては、戦争の爪痕が存在する。破壊された戦車がそのまま放置されている。無数の銃弾による穴が開いたヘルメットの割れ目からはかれんな花が顔をのぞかせている。地雷原には多数の花が咲き乱れている。

 実に皮肉なことだ。

 崔氏は計450日間、兵士と寝食を共にしながら非武装地帯を歩いた。東部の山岳地帯は冬に零下40度まで下がった。凍傷にかかったり、カメラが作動しなくなったりしたという。崔氏は、こう言う。

 「私は平和を訴えるために写真を撮影したのではありません。非武装地帯がどうなっているのか記録するための試みでした。でも結果として、平和が大切だと訴える写真になりました。江陵に来ている北朝鮮の応援団にも見てもらいたいものです」と。

 非武装地帯は、東西250キロにわたって続く。非武装地帯の南側には韓国軍が張った鉄条網がある。険しい尾根に延々と続く鉄条網は、まるで中国の万里の長城を想起させる。万里の長城は、結局役に立たなかったが、いまは中国にとっての貴重な観光資源になっている。非武装地帯が世界有数の観光地になるのは、いつの頃だろうか。