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 女性が多い摂食障害だが、男性でも悩む人がいる。さいたま市の渋谷哲生さん(27)は、ダイエットをきっかけに、16歳の頃から5年間、摂食障害に悩まされた。克服したいま、支えてくれた人への感謝を形にしたいと、埼玉県内の自助グループ「たちあおい」を運営している。性別にかかわらず同じように悩む人たちが、ふらりと参加できるような場にしたいと考えている。

「いじられる」思い込み ダイエット

 中学時代は野球部で、体重を気にしたことはなかった。高校に入って人間関係に悩み、1カ月ほどで退学。178センチで60キロだった体重は半年ほどで約80キロになった。同級生に会うと「太ったな。誰か分からなかった」と言われた。「太っていると下に見られる」「いじられる」というイメージが根強くあり、怖くなって16歳の秋ごろからダイエットを始めた。

 代謝が良かったからか、3カ月で体重は53キロまで減った。ただ、太る怖さから「もっと落とそう」と考えるようになった。ダイエットコークの炭酸でおなかを膨らませ、食事はキャベツの千切りだけ。肉や米、お菓子は食べなかった。

 一転して過食も経験した。17歳のころ、何かを勉強しようと料理の専門学校に入った。文化祭で、楽しそうに焼きそばを食べている同級生を見かけた。「笑って食べている。そんなもの食べたら太る。おかしい。それなら自分も」と考えた。これまで食べ物を制限していた反動は大きかった。1カ月ほどで20キロ太った。こんな体は見せられないと引きこもるようになった。

 体重の増減を繰り返し、「一生、食べ物のことが頭から離れないのでは」と思い詰めた。両親も心配し、心療内科やカウンセラーにもかかった。そこで初めて「摂食障害」という言葉を知った。だが、治そうというより「ラッキー。病気なんだから仕方ない。社会に関わらなくてもいい」と感じた。抗うつ剤を処方されたが、それで治る気は全くしなかった。

自信つき「誰かのために動こう」

 徐々に改善していったのは、カウンセラーの勧めで「地元を離れたらどうか」と言われてからだ。18歳ごろ、沖縄・宮古島へ行き、1カ月の間、一人暮らしを経験した。カウンセラーの知り合いの女性が近くに住んでいて、毎日メールをくれたり、島のあちこちへ連れて行ってくれたり。島の人たちも優しく、急な通り雨に遭って雨宿りしていると、目的地まで乗せていってくれることもあった。「お金でつながる関係じゃない、こんな人間関係があるんだ」。体形や食べ物にこだわる時間が減って、周りの人の目を気にしすぎる自分が少しやわらいだ。

 地元・埼玉に戻ってからは、菓子屋でアルバイトを始め、接客がうまくいったり頼まれた仕事がうまくいったりして、自信がついてきた。「誰かのために動こう」と思えるようになった。

 結局、摂食障害には5年ほど悩まされた。自分自身、つらかった時も何とかして社会との関わりを持ちたいと思っていた。参加することで社会につながる一歩にしてほしいと、5年前に自助グループ「たちあおい」をつくった。月1回、当事者同士が話す「心のゆとり場」を開いたり、ネットラジオの配信やブログでの発信に取り組んだりしている。

 初対面の人に摂食障害について話すことが難しい場合もある。ボードゲームをして遊んだり、ヨガを企画したり、どこかへ遊びに行ったりすることも。「ふらりと遊びに来られる場に」と考えている。7月の「心のゆとり場」には5人が参加し、摂食障害を経験した女の子から「彼氏ができた」という報告があり、みんなで喜び合った。「いろいろな経験をしてほしい。笑顔になる人が増えればいいなと思います」

<アピタル:やせたい私~摂食障害のいま>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/yasetai/水野梓