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 別府市在住の漫画家、あずみきしさんのデビュー作「死役所」(新潮社)が人気を広げ続けている。連載は5年目に入り、今年1月には単行本第10巻が発売。電子版と合わせて100万部以上が売れるヒット作には、さりげなく大分の風景や人が登場することもある。挫折して帰郷し、市役所で働いた経験が作品を支えている。

 「死役所」は死後の世界にある役所を描く。様々な死に方をした死者がそれぞれ「自殺課」「生活事故死課」といった課で成仏の手続きをする。職員と死者のやりとりから、様々な死やそこに至る人生が丁寧に描かれ、職員は「お客様は仏様です」と口にする。

 あずみさんは別府市で生まれ育った。2人の兄の影響を受け、自作の漫画を初めて雑誌に投稿したのは小学2年生ごろ。「描いたら投稿する。そこまでが一連の流れだと思っていた」。いつの間にか漫画家を志していた。

 だが、なかなか芽は出なかった。初めて賞を受賞したのは、県立芸術文化短期大学を卒業した後。「死役所」でデビューまでの投稿数は通算40作、計1300ページ以上にのぼっていた。

 受賞をきっかけに上京もした。担当編集者がつき、週刊誌連載を抱える漫画家のアシスタントをこなしながら原稿を描き続けた。だが、どれもボツにされる日々が続いた。編集者ともそりが合わず、耐えきれず1年後に大分に戻ったことが一つの転機になった。

 「挫折して帰ってきて、漫画家になる夢はしぼみかけた。でも、とにかく描くしかないという気持ちだった」。それまでは特定の出版社の雑誌ばかりを狙っていたが、こだわりを捨て投稿するようになった。同時に生活のため、別府市役所に臨時職員として勤務。この経験が後の作品づくりにつながった。

 公園緑地課にいた当時、役所が扱う書類の多さに驚いた。公園を利用するだけでも申請書が必要となる。「何をするにも申請書がいる」と知った時、ふと「自殺にも申請書が必要だったらいやだな」という発想が浮かんだ。「死」と「申請書」の連想から「死役所」のアイデアが生まれた。

 一気に数話分の原稿を描き上げ、アドバイスをしてくれる編集者がいた新潮社の「月刊コミック@バンチ」で、2013年から連載が始まった。

 活動拠点は別府市。「住み慣れた街が一番」と話す。作品にも県内の人物や風景が登場する。第2巻の「男やもめ」では同市が舞台となり、登場人物が大分の方言で話す。共同温泉帰りなのか、洗面器を小脇に抱えて歩く祖母と孫の姿も描かれる。第10巻の「しるし」は大分市が舞台で、地区名の「稙田(わさだ)」をもじった「和砂田」も登場する。

 「いろんな地方から死者が集まる様子を描いてきたけれど、自信を持って描けるのはやっぱり大分だった」とあずみさん。「次は単行本20巻を目指したい」と話している。(興野優平)