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 統合失調症と診断された長女を長期監禁し衰弱死させたとして、両親が逮捕される事件が大阪で起きました。社会も含めた病気への無知や偏見を事件の背景にみる人が少なくありません。誰でもなる可能性があり、100人に1人弱が生涯で発症するこの病気を、みなさんと考えます。

〈事件概要〉 統合失調症と診断された長女(33)に十分な食事を与えずに死なせたなどとして、大阪地検は1月、大阪府寝屋川市に住む両親を監禁と保護責任者遺棄致死の罪で起訴した。起訴状や取材によると、長女は小6で学校を休み始め、中学は通っていない。両親は少なくとも07年から長女を自宅のプレハブの小部屋に監禁したとされる。小部屋は、内側から開けられず、監視カメラが設置されていた。長女は昨年1月ごろから、急激にやせ衰えたが、両親は、小部屋の室温を適切に管理したり、医師に診せたりしないまま、昨年12月に凍死させたとされる。発見時の長女の体重は19キロだった。

自分を批判する「声」が…

 どんな病気なのか。症状は人によって違いますが、大学生の時に発症した男性に話を聞きました。

 大阪府の男性(34)は2002年、大学に入学。「楽しい学生生活」を夢見ましたが、違ったといいます。

 「何とか合格した」という引け目から、授業が難しいと「やっぱりだめだ」と落ち込みました。入学半年後から下宿を始めると、下宿生のグループがすでにできていて、友達もうまくできなかったそうです。

 次第に、下宿先に引きこもりがちに。ひどい二日酔いと寝不足が重なったような疲れが一日中続き、歯を磨き、顔を洗うことさえできなくなりました。

 同時に、「声」が聞こえるようになりました。性別も年齢も様々な知らない人が数人、一日中、自分のそばに立ち、ささいな行動までずっと見ていて、その全てを批判してきました。食べようとすると「大学に行ってもいないのに、何を食べているんだ」「何もしていないのに、食うだけ食うな」と嘲笑されます。

 どう動いても批判されるため、極力動かないようにしていたといいます。「意識がない、寝ている時が一番幸せでした」

 大学2年で、親が異変に気づき、病院にすぐに連れて行かれ、「統合失調症」と診断されました。薬を飲むと、身の回りのことができるように。でも、病気だと認めたくなかったそうです。「認めてしまえば、『精神疾患の人』というレッテルを貼られ、二度と抜け出せないと感じた」。「これからどう生きればいいか」。将来に絶望して自殺を図り、閉鎖病棟に入院しました。

 退院後、家の風呂掃除をしたり、診療所のデイケアで同じ立場の人と話をしたり。自分ができることや、社会との接点を、焦らないように一つずつ増やしていきました。幻聴はいつのまにか消えていました。

 休学と復学を繰り返しながら大学を卒業。就労支援を受け、今は月1回通院をしながら、大阪のNPOでフルタイムで働いています。

 寝屋川の事件で亡くなった女性は同年代です。男性は「ぼくが幸運だったのは、親がいろいろ調べて、ぼくの状態をわかろうとしてくれたこと。発症した子と同じ目線に立ち、理解しようとしてくれる大人が周りにいるかどうかが、大きな違いを生むと思う」と話します。

社会の偏見、悩む家族

 親の経験も聞きました。大阪府精神障害者家族会連合会の木村瑛子副会長(73)は、長女(40)が高校3年で不登校になり、20歳で統合失調症と診断されました。

 「育て方が悪かったのでしょうか」。医師に真っ先に聞き、否定されてほっとしたといいます。長女は「誰かがついてくる」などと言って、外出が困難に。独り言を言いながら、家の枕やシーツをカッターで切りました。受診を拒否した時期もありました。

 木村さんは、長女の発症後も仕事を続けました。「親が自分の時間を持ち、精神的に安定することが大切だと思う」。家族会に入ると「同じ悩みを持つ人と話せて、気が楽になった。病気への知識も増えた」といいます。長女は今、家族と一緒に外出できるようになっています。

 木村さんは「精神疾患への社会の偏見がなければ寝屋川の事件は起きなかったのではないか」と指摘します。同会の相談電話には、偏見の悩みが多くかかってきます。子どもが統合失調症になると「うちの家系には(精神疾患の人は)いない」と義理の親に言われたり、「育て方のせい」と近所に根拠のないうわさをされたり。

 同会の男性(78)は、子どもの精神疾患を知った知人に「まわりには言わないでおきます」と言われました。男性は「善意でしょう。でも、その言葉に、『精神疾患は隠すもの』という社会の偏見が見える」と話します。

 木村さんは「寝屋川の事件は行き過ぎですが、精神疾患がある家族をまわりに隠し、ひっそりと暮らす家族は今も少なくない。なぜ、そうなのかを考えて欲しい」と話します。

知識持つこと、最大の予防

 児童精神科医で母が統合失調症の夏苅(なつかり)郁子さんは、自身の経験から、「病気を知って」と訴えます。

     ◇

 私が10歳の頃、母に統合失調症の症状が出ました。優しかった母が、独り言をぶつぶつ言うようになり、夜になると「腹が立って仕方がない」と、険しい表情で、家中をぐるぐる歩き回るようになった。母が何に怒っているのか、わからなかった。母の目にとまらぬよう、布団の中で息を潜め、寝たふりをしました。一番つらかったのは、今思えば病気の症状の一つだったのですが、母が家事をせずに寝ていることがよくあり、それを父が怒鳴りつけることでした。

 病気のことを知らなかったので、「親らしいこともせず、なんて母親だ」とか、「母が変わったのは、家庭を顧みない父のせいだ」とか、子どもながらにいろんな解釈をした。母を10年、憎みました。

 寝屋川の事件はまだ十分に解明されていませんが、亡くなった女性が統合失調症だったとすれば、起訴された親は、子どもの頃の私のように、この病気に無知だったのではないか、と思いました。だから、事件は、私にとって全然、ひとごとではありません。子どもの頃、「お母さんがああなっちゃうのは、脳の病気なんだよ」と誰かが教えてくれていたら、気が少し楽になり、母への接し方も変わっていた。だから知って欲しいのです。

 統合失調症は脳の病気で、その原因は、十分に解明されていません。ストレスや、遺伝の影響があるといわれますが、こうした影響が確認できない人が発症することもあると感じます。発症しそうな時に、支えてくれる人に出会えて発症しなかった、などの出会いの「運」も影響すると感じます。

 あなたの子どもや孫、配偶者がなるかもしれません。「なったらどうしよう」とおびえるのではなく、病気のことを知って、「なったらどんなことをしてあげるか」を考えて欲しいと思います。

 患者さんは、病気によって怖い思いをしている場合が多い。幻覚や妄想は、「おまえは馬鹿だ」などと責められる内容が目立つ。言動が「普通」と違うように見えても、本人なりの理屈があると感じます。「家族が別人と入れ替わった」という、よくある妄想では、本人に聞くと、家族関係に問題がある場合が少なくない。「家族が別人のように優しくなってくれたら」との願いが、妄想になっているのです。

 病気の知識がないと、家族でさえ、患者さんを「わけがわからない」と思ってしまうかもしれない。家族からも否定されて孤立し、病状が悪化しかねません。

 発症した時、使える手立ても知って欲しい。薬や、保健師・精神保健福祉士らへの相談や就労支援、障害年金などがある。回復の程度は人によって様々ですが、適切な治療で症状を安定させている人、生き生きと暮らす人も少なくありません。公務員として働く人もいます。

 身近な病気なのに、「ひとごと」だと思っている人が多い背景に、教育の問題があります。10代後半から20代が発症のピークなのに、日本の義務教育は保健体育で精神疾患を教えていない。私も含めた精神科医療の専門家で、中学の保健体育の教科書に統合失調症などの精神疾患を載せようと活動しています。一番最初に異変に気づくのは、もしかしたら本人かもしれない。「教科書で習ったのって、もしかしたらこれかな?」と。それが最大の予防になると思うのです。

記者のひとこと

 寝屋川の事件をきっかけに、統合失調症の取材を始めました。どんな病気なのか、そして発症した人や家族が感じている生きづらさについて、自分自身が無知だったことを痛感しました。今の世の中に、どんな問題があり、今回の事件のような悲劇を再び起こさないために、何が必要なのか。

 病気への偏見、支援制度、医療のあり方なども含めてご経験やご意見をお寄せください。(長富由希子)

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「統合失調症」についてのご意見や体験をお寄せ下さい。asahi_forum@asahi.comメールするか、ファクス03・3545・0201、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞社 報道・編成局長室「フォーラム面」へ。

 

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