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 あのころの博士は、不自由ながら声が出た。その言葉を付き添いの青年が聞きとり、聴衆に伝え直した。1985年、京都大学であった講演会。題名は「時間の矢」。学界の外ではまだ無名に近いスティーブン・ホーキング博士が来日したときのことである。

 カップが割れる映像を逆回しで見せ、膨張中の宇宙がいずれ収縮に転じたら、「熱力学的な時間の向きは逆転する」と話した。

 私はこれを小さな記事にした。それは後に、山田太一さんの小説『飛ぶ夢をしばらく見ない』に引用される。「時間反転」は、女性が若返っていくという作品のモチーフに重なった。博士の研究が私たちの想像力を刺激してくれた。

 この話には、落ちがある。5年…

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