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 我が家には来春、小学1年生になる5歳の娘がいます。人一倍小柄なため、ランドセルが歩いているような子どもを見かけると、「ちゃんと通学できるだろうか」と今から心配になります。入学シーズンを前に、ランドセルの重さについて、考えてみます。

最高9.7キロ 増える中身

 近ごろの小学生は、どれぐらい重いランドセルを背負っているのでしょう。東京都内の小学校に通う1年生の女児(7)に、中身を見せてもらいました。教科書4冊に加え、ノート、ドリル、プリント類で、ランドセルと合わせると計5キロ。この日は金曜日だったので、外履きやエプロンなどを入れた重さ1.3キロのサブバッグも持っていました。

 体重22キロの女児にとっては相当な負担のようで、ランドセルを下ろした途端、「肩が凝っているから、モミモミして」と母親(39)に訴えました。母親は「骨格に影響が出ないか、心配です」と話します。

 子どもに関わる消費ビジネスが専門の大正大学の白土健教授は、昨年11月、東京都内の民間の学童保育に通っている1~3年生20人のランドセルの重さを調べました。側面のフックに給食袋や体操着袋などをかけている場合は、そのままの状態で量りました。その結果、平均の重さは約7.7キロで、最高は9.7キロでした。

 調査は、友人から話を聞いたのがきっかけでした。小学校に入学したての友人の子どもがランドセルを背負うと、あまりの重さに、後ろにひっくり返りそうになったそうです。「自分が子どものころは、じゃんけんで負けた子が他の子の分も持って帰るという遊びをしましたが、いまの時代はとても無理ですね」

 なぜ、これほど中身が重くなったのでしょう。白土教授は、その一因に、教科書のページ数の増加を挙げます。

 一般社団法人・教科書協会の調査によると、「ゆとり教育」時代だった2005年度、全教科の教科書のページ数(1~6年合計、各社平均)は4857ページでした。しかしその後、「脱ゆとり教育」を反映した学習指導要領が実施されると、15年度のページ数は6518ページと、10年前に比べ34%も増えました。18年度からは道徳も教科になるので、さらに1067ページ分が加わる計算です。

 それに伴い、ランドセルの大型化も進みました。ここ数年は、A4用紙をとじるファイルがすっぽり入る「A4フラットファイル対応」をうたうランドセルが増えています。

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 そもそもランドセルはいつから使われるようになったのでしょう。

 メーカー35社が加盟するランドセル工業会によると、日本で初めてランドセルが使われたのは、学習院初等学科だそうです。1887(明治20)年に伊藤博文首相が、軍隊用背囊(はいのう、オランダ語でランセル)をベースにした箱形通学かばんを後の大正天皇の入学祝いとして献上したのが始まりとされます。戦前は高級品で、一般に広まったのは戦後と言います。

 林州代会長によると、工業会ではランドセルの内寸を縦31センチ、横23.3センチ以下と決めており、重さは1000~1600グラム程度と言います。「大型化は進んでいますが、背板を軽くするなど工夫しているので、親世代が使っていたものと重さ自体は変わらないんですよ」。技術的にはもっと軽くすることは可能ですが、耐久性を考えると、これ以上、革を薄くすることは難しいそうです。

 林さんは、ランドセルには過去3回、転換期があったと言います。1度目はランドセル廃止運動が広がった1960年代、2度目は急速に大型化が進んだ70年代、3度目は24色を展開するメーカーが出現した2000年代です。「ランドセルが生き残れたのは、日本製にこだわり6年間の修理対応を保証していることや、形を変えないで進化していることが大きいと思います。6年間、毎日使っても壊れないかばんは、世界中を見渡してもランドセルだけです」

リュックを使う地域も

 ランドセルの選び方や背負い方にコツはあるのでしょうか。ランドセルの開発にも協力している日本大の青木和夫特任教授(人間工学)に聞いてみました。

 店頭で選ぶ際には、「肩ひも」と「背中」に注意するといいそうです。肩ひもに全重量がかかるので、なるべく幅が広く、クッション性があるものの方がいいと言います。購入する際は空の状態ではなく、実際に本などを入れてみて、重さやフィット感を試した方がいいとアドバイスします。

 背負い方は、背あて部分と背中が密着している方が、背骨とランドセルの重心との距離が短くなり、背負う力が少なくて済むそうです。また、重いものは背中に近く、そして上に入れた方が、軽く感じるそうです。「登山リュックの原則で、荷物はガタガタさせずぴっちり詰め込んだ方がいい。隙間がある場合は、タオルなどかさばって軽いものを入れた方が、無駄な力が入りません」

 「中身」を軽くすることはできないのでしょうか。

 国は早ければ19年度から、紙の教科書をそのまま電子データにした「デジタル教科書」の使用を小中高校で認めます。公益財団法人・教科書研究センターの細野二郎参与によると、日本より一足早く13年にデジタル教科書を解禁した韓国では、採用している学校は3割程度にとどまり、紙の教科書と併用しているそうです。「文科省も原則、紙の教科書と併用することとしています。タブレットは高価なこともあり、すぐに『1台持てば終わり』という時代にはならないでしょう」と予測します。

 昭和女子大付属昭和小学校(東京都世田谷区)では、1、2年生の間は全ての教科書を学校に置いて帰り、ナイロン製のショルダーバッグで通学しています。奈木野昌一教頭は「低学年のうちは、家庭では学習より生活体験を重視して欲しいという学校の方針です」と説明します。小さい体への負担を減らしたいという思いもあり、40年以上続く方針だそうです。自宅にはノートと筆記用具、家庭学習用のプリントだけを持って帰るそうで、1キロ前後で収まります。ただし、体力がついてくる3年生以降は学校指定のランドセルを背負い、教科書も持ち帰ります。

 「かばん」を軽くする、という方法もあります。

 京都府宇治市や亀岡市などを中心に、大阪や滋賀、埼玉、福岡の一部の小学校では「ランリック」というリュックが使われています。京都府向日市のマルヤスという会社が50年前から作っており、重さは670~760グラム、価格は税込み1万円前後と、ランドセルに比べて軽く、安価です。

 同社の鈴木康弘さんによると、開発のきっかけは、鈴木さんの祖父にあたる初代社長が小学校の校長から「貧しくて豚革のランドセルを買った家庭の子どもが、『ブタ、ブタ』といじめられた」という相談を受けたことでした。交通事故を防ぐため、警戒標識を意識した黄色地に黒い線のデザインが基本です。大事に使えば6年間持つといい、年間約1万個が売れています。

 北海道小樽市では新入生の約7割が、ナップサックとランドセルの頭文字を合わせた「ナップランド」というかばんを購入しています。坂道や雪が多い小樽の子どもたちの負担を軽減しようと、約50年前に市内のかばん業者が開発しました。現在は2社が取り扱い中で、その一つ、村田商事のナップランドは、重さ660グラムで価格は税込み7020円。村田達哉社長は「ランドセルより軽くていいと、東京や大阪を始め全国から注文があります」と話します。(岡崎明子)

体格に個人差 大人が配慮を 日本赤十字社医療センター整形外科センター長 久野木順一さん

 重いランドセルを背負い続けた場合、体への負担が心配です。米小児科学会は「バックパックの重さは体重の10~20%を決して超えないこと」としています。文部科学省の統計によると、小学1年生の平均体重は約21キロ。米小児科学会の基準では、2~4キロを超えない重さが望ましいということになります。

 脊椎(せきつい)外科が専門の日本赤十字社医療センターの久野木順一・整形外科センター長に、体への影響について聞きました。

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 ランドセルは2本のベルトにより、体幹の中心に近い背中で二重を支えるなど、児童のかばんとしては合理的なものです。しかしあまりにも重すぎる場合は、注意が必要です。

 重いランドセルを長期間、背負う影響について調べた論文は、残念ながら見当たりません。しかし医学的にリスクが高いことは避けるべきだというのが、基本的な考えです。

 平均11歳の男女8人の児童に4、8、12キロ(体重のおよそ10、20、30%)のバックパックを背負ってもらい、立った状態でMRIにより腰椎(ようつい)への影響を調べたという米国の研究があります。バッグの重さと椎間板(ついかんばん)が圧迫され隙間が狭くなる程度は比例すること、前傾してバランスを取ろうとするため猫背気味になることが、画像から確認できました。腰痛などの痛みの程度も、バッグの重さに比例して悪化していました。

 また、重さが8キロを超えると、半数の子どもの背骨が、片側に10度以上傾いていることもわかりました。両肩で背負っていても、体の癖が出てしまうのでしょう。

 子どもの体格や筋力には、個人差があります。特に体の小さい1、2年生の女の子が、体重の15%を超えるような荷物を背負うことには反対です。低学年の間はリュックにする、自宅で使わない教科書は学校に置いていくなどの対策が、必要でしょう。大人が知恵をしぼり、子どもたちの健康を守っていかなくてはなりません。(聞き手・岡崎明子)

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