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 ネット上の情報を集めた「まとめサイト」で、他人のブログなどからの無断転載が社会問題化して1年あまり。写真100点以上の無断転載に損害賠償を求めてきた夜景写真家の岩崎拓哉さんは「この1年で、運営者を明らかにしていない『匿名まとめサイト』での被害が目立ってきた」と指摘する。こうしたサイトに対抗するには「三つの壁」があるという。岩崎さんに壁を突破するノウハウを聞いた。

交渉の壁

 岩崎さんには匿名サイトとの「交渉の壁」に直面した、苦い経験がある。

 昨年、匿名サイトにメールで無断転載を指摘したところ、運営者がネット上で「脅迫メールが送られてきた」と岩崎さんを名指しで批判し始めたのだ。

 岩崎さんは「匿名サイトの中には、問い合わせフォームだけは掲載しているサイトも多い。しかし、それらを使って連絡をしない方がいい。相手がどのような反応を示すか分からない以上、自分だけ実名や連絡先を伝えるのは大きなリスクです」と強調する。

 岩崎さんは、夜景スポットを写真付きで紹介するサイトを運営している。3年ほど前から、そこに載せた夜景写真が様々なサイトに次々と無断転載された。

 多かったのが「おすすめ夜景スポット 全国トップ20」といったまとめ記事だ。他サイトから夜景写真を転載し、所在地などの情報を添えただけ。

 著作権法では一定の条件を満たせば他人の著作物を「引用」することが認められているが、まとめ記事の多くは写真をどこから転載したか書いていなかったり、文章部分が極端に短かったりと、「手間をかけずに記事を量産したいという意図が丸見えで、引用の条件を満たさないと思われるものが多かった。全国へ足を運んで写した写真が勝手に使われ、とても悔しい思いをしました」。無断転載対策として写真の隅に入れた岩崎さんの名前が切り取られているケースもあった。

 無断転載が社会問題化したことで、DeNAやリクルートなど大手企業の運営サイトは次々閉鎖された。しかし、その陰で目立つようになったのが、運営者情報のページにハンドルネームや問い合わせフォームしか掲載されていない匿名のまとめサイトだった。これまで30~40の匿名サイトで、岩崎さんの写真が見つかったという。

匿名の壁

 運営者を突き止めないと、匿名サイトへの賠償請求は難しい。しかし、こちらの名前などを伝えて直接連絡をとることもリスクが伴う。

 そこで岩崎さんが活用しているのが、匿名サイトが置かれたサーバー会社を通じて運営者の身元を調べる方法だ。

 まずサーバー会社はネットの無料サービスで手軽に調べることができる。さらにサイト運営者を調べる手続きは「発信者情報開示請求」と呼ばれ、請求に必要な書類がネット上で公開されている。

 サーバー会社が法律に照らして必要と判断すれば、サイト運営者の名前や連絡先などの情報が開示される。岩崎さんの経験では、開示請求した29サイトのうち7割について情報が開示された。

 「開示の可否を判断するため、サーバー会社から運営者に連絡が行く。それだけでも運営者に、世の中の目が届いているんだとプレッシャーを与えることができます」。実際2カ所の匿名サイトが、岩崎さんからの開示請求を受けて閉鎖した。サーバー会社を通じて「著作権の知識もないまま、サイト運営をしていました」と謝罪があったサイトもあった。

費用倒れの壁

 「匿名の壁」が崩れたあとは、運営者に無断転載した画像の削除や損害賠償を求められる。しかし損害賠償ともなれば、メールなどでの交渉では主張が対立することも多い。岩崎さんは「画像削除で済ませては、匿名サイトに改善は期待できない。また別の人が被害に遭うだけ」との思いから、やむを得ず賠償を求める訴訟に動いている。

 そこで問題となるのが「費用倒れの壁」だ。プロ写真家の岩崎さんでも賠償請求で得られるのは写真1枚あたり数万円ほど。そのため訴訟に勝っても、弁護士費用の方が上回って赤字になってしまう恐れがある。

 岩崎さんは「訴訟にかかる費用を抑える工夫も、模索してきました」と話す。

 その一つが、弁護士ではなく司法書士に依頼することだ。賠償請求額が140万円以下の簡易裁判所で扱う訴訟なら、認定司法書士にも代理業務が認められている。「ただ、実際に依頼する際には、著作権法に理解のある司法書士を探すのに苦労もしました。そのかいあって私の場合、着手金が弁護士の半額程度で済みました」と岩崎さん。裁判にかかる時間を短縮できる少額訴訟制度も活用した。

 最近ではネットなどに無断転載への対抗策に関する情報は増えている。岩崎さんもブログで自身のノウハウを公開している。

 岩崎さんは「匿名サイトにも泣き寝入りせず対抗していくことが、被害を減らしていく道になる。費用や手間はもちろんかかるが、越えられないハードルではないことを知って欲しい」と話している。

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 〈いわさき・たくや〉 摩耶山(神戸)や稲佐山(長崎)の夜景に魅了され、2003年から夜景写真家として活動。これまでに国内外2千カ所以上で撮影している。近著に「夕景・夜景撮影の教科書」(技術評論社)など。(信原一貴)