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 15日から16日未明にかけて行われた将棋の公式戦で、勝利目前の棋士が相手玉の「詰み」に気づかず、敗北を認めてしまう異例の出来事があった。勝った棋士にとっては白星を拾ったうえ、結果的に一つ上のクラスへの「昇級」を果たす大きな1勝となった。

 対局は、第76期将棋名人戦・C級2組順位戦(朝日新聞社、毎日新聞社主催)最終10回戦での増田康宏五段(20)と神谷広志八段(56)の一戦。午前10時に始まり、午後10時45分、同じ手順が繰り返されて決着がつかなくなる「千日手」が成立。30分後に指し直し局が始まり、終盤まで競り合いが続く展開となった。

 双方、持ち時間を使い果たし、1手1分未満で指さないといけない大詰めの局面で、増田五段は、相手の玉将を窮地に追い込む手を指した。しかし、これが危険な手で、増田五段の玉将に「詰み」が生じた。神谷八段がそれに気づき、王手をかけ続ければ勝ちだった。だが午前2時7分、神谷八段は頭を下げ、負けを認める「投了」の意思を示してしまった。この投了が敗因という結果になった。

 勝利を自ら逃したことを知らされた神谷八段は「一瞬だけチャンスが来たのか。詰み(のある局面)で投了はひどすぎるね」と言って、頭を抱えた。

 順位戦には、名人挑戦権を争うA級から、最も下位のC級2組まで五つのクラスがある。C級1組への昇級を決めた増田五段は「投了されると思っていなかった。びっくりした。昇級が1年間の目標だったので、とてもうれしい」と話した。この日のC級2組の対局では藤井聡太六段(15)も勝ち、全勝昇級を果たしていた。

 増田五段は新人王戦2連覇の実績があり、藤井六段が新記録の「公式戦29連勝」を達成した時の相手だった。神谷八段は、昨年藤井六段に破られるまで歴代1位だった28連勝の記録を持っていることで知られる。(村瀬信也

「詰み」の手順を説明

 増田康宏五段が▲5三飛と打った図の局面で、先手の玉将に「詰み」があった。手順は△6九飛成▲同玉△7八銀▲同玉△6七金▲8八玉△7九角▲9八玉△9六香に、先手は飛車、角、銀のどれかを合駒をするしかなく、いずれも詰んでしまう。▲9七銀とした場合、△同香成▲同桂△8八金▲同銀△同角成▲同玉△7七銀▲9八玉△8九銀▲同玉△7八金▲9八玉△8八金までの23手詰め。神谷広志八段はこれに気づかず、頭を下げて投了した。

 詰みの手順には、増田五段も気づいていなかった。増田五段は「詰まされても文句は言えないと思っていた。本当に良かった」と胸をなで下ろしていた。