写真・図版

[PR]

 口腔(こうくう)(口の中)の感染というと、多くの方はう蝕(しょく)(虫歯)と歯周病を思い浮かべると思います。実際その通りで、う蝕と歯周病は口腔の感染の中で大部分を占め、口腔内にある細菌が原因で起こります。

 う蝕や歯周病は放置しても、命に関わるようなことはないと多くの人が思っていることでしょう。通常の体力であれば問題ないのですが、時として歯に関係する感染から命に関わるような非常に重篤な感染を引き起こし、口腔外科を受診される方が1年に何人かいます。そのほとんどが、糖尿病や腎不全などの基礎疾患を持ち、抵抗力が低下している人です。

 口腔の周辺には口を開け閉めする筋肉がたくさんあり、その筋肉間に隙間があります。口腔の感染はこの隙間に入り込み進んでいくため、簡単に頸部(けいぶ)から胸部の縦隔(じゅうかく)(両側の肺に囲まれ、中に心臓や大きな血管がある部位)まで進行することがあります。炎症が周囲のかむ筋肉(咀嚼(そしゃく)筋)の隙間に入っていくと、口が開かなくなる(開口障害)状態となり、食事も摂取することが難しくなります。

 そうなると余計体力が低下して炎症がひどく広がってしまうことになります。また、のどの方に炎症が広がり腫れてくると、呼吸ができなくなり、窒息してしまうこともあります。

 命に関わる重篤な感染を引き起こすこともあります。糖尿病では細菌と戦う白血球の機能が低下しやすく、また、腎不全では栄養不足になったり老廃物が体内に蓄積したりするため、いずれも感染に弱い状態となります。そのため、特に糖尿病や腎不全のような持病を持っている人は虫歯を放置しておかないことが大切です。

 虫歯でなくても、親知らず(智歯(ちし))から細菌感染が生じることあります。

 人間のあごは、軟らかいものを食べるようになった食生活の変化により、徐々に小さくなってきている傾向にあります。本来であれば、あごの縮小に伴って歯の本数も減少していく必要があります。

 しかし、そのバランスがとれずに歯の本数と土台の大きさが合わないため、最後に出てくる親知らずがまっすぐに生えず、横になったままになってしまいます。その結果、歯磨きをしてもきれいに磨けずに歯垢(しこう)がたまり不潔な状態となります。風邪を引いたり、疲れたりした時に全身の抵抗力が落ち、親知らずの部分の炎症が一気に悪化します。これを「智歯周囲炎」と呼びます。

 また、最近の研究から歯周病が様々な全身疾患と関わりがあることがわかってきました。歯周病は普段はあまり強い炎症をおこさず、症状もなく経過していきますが、実は慢性感染が持続していて、そこから全身に細菌が回るか、歯周組織で産生された炎症性サイトカインという物質が全身に回ることで、様々な病気の発病に関係しています。

 口の中の細菌を無意識に誤嚥(ごえん)して肺炎になったり、血管を通って回った炎症性サイトカインにより動脈が慢性炎症を起こして動脈硬化が生じたりすることもあります。妊婦に歯周病があると、子宮に炎症性サイトカインが移動し、早産や低体重児出産に関係すると言われています。

 歯の病気は口の中だけでなく、全身にも影響を及ぼしますので、歯磨きなどの日頃の手入れと、かかりつけ歯科を持ち必要に応じて歯科治療を行うことが重要です。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科歯科口腔外科学講座教授 小林恒(わたる))