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 小説家の宮内悠介さんに「最初の一歩」をテーマにエッセーを寄せてもらいました。

     ◇

 何者かと問われ、「ツーリスト」と答えた。本当ではないけれど、噓(うそ)でもない。係員のおっちゃんは軽く頷(うなず)くと、パスポートにぽんと入国スタンプを押してくれた。あとは、徒歩で国境を越えるだけ。暑い、晴れの日だった。気温は四十度近い。手持ちの水が残り少ないのが気になりつつも、とりあえず歩きはじめた。三年前、『あとは野となれ大和(やまと)撫子(なでしこ)』という長編を書くために、中央アジアを取材していたときのことだ。

 いろいろと面白い取材だった。前の日には、乗りあいタクシーでアフガニスタン人の旅人のおっちゃんと出会った。いまアフガン人の旅人は多いのですかと問うと、けっこういるよとの由。さらにその前は、ルーマニアから一人バイクでロシアを突っ切って中央アジアへ来たというおっちゃん。東ドイツで土建業をやっていた当時の話をさんざん聞かされた。いわく、あのころはよかった。

よくわからないが面白い

 よくわからないが面白い。そして、おっちゃん率が高い。とにかくそういう取材旅行だった。取材の最後の仕上げとして、タジキスタンから陸路で国境を越え、ウズベキスタンの東部に入ることにした。目的は、かつてそこであったという政治的事件を調べるため。帽子をどこかでなくしてしまったので、日除(ひよ)けにタオルを巻いた。

 旅先で国境を越える、その瞬間がぼくは好きだ。不安はある。でも、その不安こそがいい。道行く先に、何が待っているかわからないからだ。

 ありそうなのは、こちらが何も…

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