[PR]

「トランプ王国」熱狂のあと ラストベルトに住んでみた:12

 オハイオ州のアパートで暮らし始めると、かつて取材した人に再会しやすくなった。地元の飲み屋に毎週のように通えるからだ。住み込み取材を試みた理由の一つが、この再取材にあった。

 常連客ミシェル・ローリー(28)も再会できた一人だ。前回と同じく、ボーイフレンド(34)と同じバーの同じカウンターで飲んでいた。私は1年ぶりぐらいの再会だ。

 「サンドイッチ店はどう?」

 ミシェルは地元ヤングスタウン(Youngstown)のサンドイッチ店の創業者の孫にあたり、平日は店で働いている。前回そんな話を聞いていた。それを思い出して尋ねると、ミシェルは「どうもこうもないわよ、特に変わらず。平凡な毎日の繰り返しよ」と答えた。

 そして、近くにある大手フランチャイズのサンドイッチ店との競争が大変だ、との話を始めた。

 「父はいつも忙しそうにしている。そうだ、あなた、父の話はおもしろいわよ、取材しなさいよ。スモールビジネス(中小企業)の経営者の話にも興味あるでしょ? それに彼は大のトランプ支持者だし、紹介するからお店に行ってきてよ」

 ミシェルはそう言って身を乗り出すと、私のノートに「無料サンドイッチ券」を書いてくれた。「(メニュー表の)16番イタリアン・サンドイッチ。焼いたホワイトブレッド。ミシェルのツケ、無料!無料!」と。私から好みの種類を聞き取り、具体的な注文を書き込んでくれた。

 「店員にこのメモを渡せば、私が店内にいなくても、いつでもあなたに最高のサンドイッチを作ってくれるわよ」「フライドポテトもつけるわ。アイダホ州から取り寄せたジャガイモの皮むきから店で調理しているから、フランチャイズ店より断然おいしいわよ」

 ミシェルが最も強調したのが次だ。

 「ジャガイモだけでなく、ハムも違うのよ。フランチャイズ店みたいにパッケージから出して並べるのではなくて、お客さんの目の前で大きな肉の塊をカットする。新鮮よ」

 仕事の細部にこだわる人の話からは、仕事への誇りが伝わってくる。どこで聞いても気持ちが良い。ミシェルの父に会いに行くことにした。

「私の人生は働く、働く、働く」

 店は、ヤングスタウンの大通り沿いにあった。ヤングスタウンはかつての製鉄の都だが、今では貧困率38%と全米平均13%の3倍。家計所得の中央値は2万4448ドルで、全米の5万5322ドルの半分にも届かない。

 ミシェルの父ボブ(61)は店の奥の事務所で、野菜やジャガイモの注文票とにらめっこしていた。近くに「アイダホ州」「ジャガイモ」と大きく書かれた段ボール箱が五つ山積みになっていた。注文カウンターの前にハムのスライス機があり、学生バイトが客の注文を聞き取りながら肉をスライスしていた。ミシェルの説明の通りだ。

 ボブは「インタビューなんて初めてだぞ」と言いながら、少し照れ気味に取材に応対してくれた。

 「私の名前はボブ・ローリー。ここヤングスタウンの出身です。父はウェストバージニア州の炭鉱労働者だったが、ヤングスタウンが製鉄業で盛り上がっていると聞いて、1951年に引っ越してきた。しばらく製鉄所USスチールで働き、70年代に『何か飲食店ビジネスをやってみよう』とサンドイッチ店を始めた。それから40年以上が過ぎ、息子の私が今その店に立っているんです」

 「私の一日を知りたい? 普通ですよ。私の人生は、ここに出勤し、家に帰り、(光熱費などの)請求書をきちんと払う。それが私のやることです(My whole life is coming to work here and going home, paying the bills. That’s what I do.)」

 1分ほどの自己紹介だった。私には、米国は「○○を受賞」とか「○○に選出された」とか自己アピールに熱心な人が多い国というイメージがあったが、この「トランプ王国」の取材で出会う人は控えめな人が多く、私の認識は変わった。まじめに働き、請求書をきちんと払ってきたという点を強調する人が多い。大人としての責任を果たしていたという趣旨だ。

 とはいえ、もっとボブのことを…

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

980円で月300本まで有料記事を読めるお得なシンプルコースのお申し込みはこちら

こんなニュースも