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 最初の発言は「答弁を差し控える」だった。森友学園との国有地取引に関わる公文書改ざん問題で、証人喚問に呼ばれた佐川宣寿(のぶひさ)・前国税庁長官(60)は27日、約9カ月ぶりの国会で謝罪の言葉を重ねる一方、「刑事訴追のおそれ」を理由に重要な点について証言を拒み続けた。議場には失望の声が漏れた。

 佐川氏は午前9時半の少し前、参院の第1委員会室に姿を見せた。左胸には、証人であることを示す緑色のリボン。深く3回お辞儀した。

 虚偽の証言をすると処罰される場合があることなど、金子原二郎委員長の説明が5分程度続く。その間、瞬きを繰り返したり、口を何度も結んだりしたが、宣誓を求められると落ち着いた口調で読み上げ、宣誓書への署名と押印を速やかに終えた。

 冒頭、改ざんの動機や指示した人物はだれかについて尋ねられると、言葉を選ぶように答えた。「私は現在、告発を受けている身でございます。刑事訴追を受けるおそれがございますので、その点につきましては、答弁を差し控えさせていただきたい」。委員会室には、議員らの「えーっ」という声が満ちた。

 その後も改ざんについての認識などを問う質問が続いたが、佐川氏は証言を拒み続ける。2時間のやりとりの中で「刑事訴追のおそれ」「差し控える」をそれぞれ20回程度繰り返した。共産の小池晃氏は「都合の悪いことに答えないというだけの話」「これ以上聞いたって意味ない」と反発。議事は一時中断した。

 一方で、改ざんの責任について問われると能弁に答えた。「書き換え問題で国会に大きな混乱を起こし、行政の信頼を揺るがしたことは申し訳ない」「責任はひとえに私にある」

 また、自民党の丸川珠代氏が「安倍総理からの指示はありませんでしたね」「総理夫人からは」と、官邸幹部らの役職を一つ一つ挙げて指示について質問すると、きっぱりした口調で「ございません」と次々に否定していった。野党からは「何で言い切れるんだ」との声が漏れた。

 丸川氏が「理財局内での書き換えか」と問うと「理財局の中で行われたというふうに考える」と答えた。

 一瞬言葉に詰まったのは、交渉記録を「廃棄した」とした昨年の国会答弁について問われたとき。「丁寧さを欠いた」「申し訳ない」と非を認めた。その理由を問われると、理解を求めるように「当時、局内は連日連夜、朝まで(国会対応)という日々。月曜から金曜まで質問をいただくなかで、まったくそういう余裕がなかった。申し訳なかった」と話した。

 答弁で価格交渉を否定したのは間違っていたのでは、と問われたときは語気を強めた。「現場で価格の話をすることはあるが、最後は不動産鑑定価格によって決定すると随分答弁した」「いまでも答弁は正しかったと考えている」。昨年春、国会で繰り返していた強気な姿が戻った。

 午前の参院では、議員9人を相手に計2時間超。次々に繰り出される質問に対し、傍らに控える弁護士の助言をあまり求めないまま渡り合ってみせたが、疑惑の解明は進まなかった。

 佐川氏は公文書改ざんの経緯をどう説明するのか――。27日午前の参院予算委での証人喚問は20人以上が傍聴し、熱心にメモをとったり、のぞき込むように見つめたりしながら、証言に耳を傾けた。

 千葉県市原市の大学3年生、田中朔也(さくや)さん(24)は「森友学園問題の全貌(ぜんぼう)解明に向けて大きく動く日になってほしい」と期待して初めて国会傍聴に足を運んだ。「すべて語るとは期待できない」としつつも「公文書改ざんの理由などの疑問に対して、はっきり答えてほしい」と話した。

 東京都新宿区の男子大学院生(24)は「公文書改ざんの問題が大きくなったのは、報道が出てからも財務省がすぐに認めなかったからだ。議員がどういう質問で証言を引き出すのかに注目したい」と言う。

 横浜市のフリーライター堀内一秀さん(57)は「佐川氏には1年以上国会を混乱させた責任がある」とみて、証言による事態の進展を期待していた。だが、刑事訴追の恐れを理由に肝心な証言を拒み続ける佐川氏の姿勢に「証人喚問の意味がない」とあきれた。なぜ安倍昭恵氏の名前が文書から削られたのかなど、改ざんの目的はふに落ちないまま。「もっと時間をかけて、真相を明らかにしてほしい」と話した。

 国会周辺では27日正午ごろから数百人が抗議集会を開いた。参加した民進党の杉尾秀哉参院議員は「証言拒否で聞くに堪えない。なのに、明確に官邸からの指示はないと証言した。おかしくないですか」と訴えた。参加者らは昭恵氏らの証人喚問も求めた。