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 「五輪やパラリンピックに挑む真のアスリートとは、どんな人でしょうか」。競泳で五輪4大会に出場し、四つのメダルを獲得した松田丈志さんが27日、カヌー・スプリント海外派遣選手最終選考会の開会式後にあった講習会で、選手に語りかけた。

 有力選手がライバル選手の飲み物に禁止薬物を混入した事件の再発防止を目指す日本カヌー連盟が、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)でアスリート委員を務める松田さんを講師に招いた。松田さんは自身の経験を交えながら「真のアスリート」について、持論を語った。

 五輪は「良くも悪くも、シビアな世界」だ。そう痛感したのが、中京大2年の時に出場した2004年のアテネ大会のときだった。

 200メートルバタフライは世界ランキング3位だった。「松田、メダル期待」と新聞で活字が踊った。だが、結果は準決勝敗退。メディアは誰もいなくなり、「頑張ってね」という周囲の応援の声は「残念だったね」に変わった。

 帰国の飛行機は、メダリストがエコノミーからビジネスクラスに格上げされた。成田空港に到着すると、旅行会社の関係者が「メダリストはバスに乗って下さい。それ以外の人はここで解散です。お疲れ様でした」と言われた。「こんな終わり方なんだなと。めちゃくちゃ悔しかった」と松田さんは当時を振り返る。

 メダリストと自分は何が違うのか。ノートに殴り書きした。そんなある日、平泳ぎで二つの金メダルを獲得した北島康介さんがゴールする映像を何げなく見て「ハッとした」という。スタンドの映像に切り替わると、日本チームのコーチ、ドクター、選手、みんなが泣きながら抱き合っていた。

 北島さんは様々な専門家から弱点をあぶり出してもらいながら、コーチやトレーナーと解決策を見つけていた。「選手が真剣にやればやるほど、周りも『あいつのために俺も頑張ってやろう、サポートしてやろう』という関係ができる。それが、あの金メダルの涙だったんだな」と松田さんは感じた。

 松田さん自身は、というと「他者から学び、他者をリスペクトして、そこから自分も学びを得て、自分を高めていくという姿勢はまだまだ足りなかった」と感じた。そして「真のアスリートは周りの応援、周りの力を自分の力に変えられる選手だ」と思った。それから08年北京、12年ロンドン、16年リオデジャネイロの3大会で銀メダル一つ、銅メダル三つを獲得した。

 カヌーの薬物混入事件で、加害者の選手は連盟やJADAの調べに「20年東京五輪出場が危うくなったと感じ、ライバルを陥れようとした」と説明している。一方、松田さんは講習会の結びで「競泳と同じく個人種目だけど、ともに戦うカヌーの仲間がいる。他者から学び、自分を高めていってほしい。ハネタク(リオ五輪スラローム銅の羽根田卓也)だけじゃないところを見せて下さい」と選手たちにエールを送った。(前田大輔)