将棋のプロ棋士による団体戦の観戦を中心に、サイン会、指導対局も交え、棋士とファンが交流するイベント「将棋棋士が間近で激闘! 関西プロ団体戦」(主催・日本将棋連盟、特別協力・朝日新聞社、協賛・月桂冠株式会社)が3月25日、大阪市北区の中之島フェスティバルタワー12階のアサコムホールなどであった。事前に申し込んで参加したファン約120人が体感した、18棋士のパフォーマンスをリポートする。

色紙送られ、ファン歓喜

 日本将棋連盟関西本部(大阪市)による初めての企画。日本将棋連盟常務理事の井上慶太九段(54)らの尽力で実現した。団体戦はアマチュアでは盛んだが、井上九段は「今回のようなプロ棋士による団体戦は非常に珍しい。我々としては初めての試み」と言った。

【動画】将棋棋士18人がチーム戦で激突=佐藤圭司撮影

 団体戦は午後1時から、関西本部所属の18棋士が3人ずつ、6チームに分かれて戦った。持ち時間は各10分、使い切ったら1手30秒未満という早指し戦。ファンは決められた時間に交代で対局室に入り、近くでプロ棋士の対局を観戦する仕組みだ。井上九段は「びっくりするくらい、距離が近いですね」。

 会場には女性ファンが目立った。堺市の主婦、田浦里美さん(40)は数年前に対局姿を見てから、ずっと山崎隆之八段(37)のファン。「間近で対局姿を見ることが出来た」。優勝チーム予想クイズでも当選し、山崎八段らの色紙を贈られ、大喜びだった。

 参加した棋士たちも、タイトルホルダーの菅井竜也王位(25)、来期A級順位戦に参加する稲葉陽(あきら)八段(29)と糸谷(いとだに)哲郎八段(29)、2017年度の「将棋日本シリーズ JTプロ公式戦」と「NHK杯将棋トーナメント」で優勝した山崎八段ら、豪華な顔ぶれだ。チーム分けは「戦力が均等になるように」と日本将棋連盟が決めた。記者は、山崎八段と糸谷八段と竹内雄悟四段(30)が組む「広島出身の森信雄七段(66)一門チーム」が、プロ野球・広島東洋カープの赤い帽子をかぶって、横並びで奮戦する姿を夢想したが、今回はかなわなかった。

抽選カード引き、意気込み

 午後0時半すぎ、橙(だいだい)、緑、白、黄、赤、青の6色のチームカラーの腕章をつけた18棋士が会場に次々に入ってきた。大将格の棋士6人が組み合わせ抽選のカードを引く。そして、18棋士が、一言ずつ、意気込みを語った。

 青チームの場合、大将格の平藤眞吾七段(54)は「仲間内では評価が高いチームなんです。僕が勝てば、なんとか、なりそう」と謙虚な発言。宮本広志五段(32)が「隣の方が、青いスーツを着ています……。私も負けないように頑張ります」とスピーチすると、会場から笑いが。大橋貴洸(たかひろ)四段(25)は、鮮やかな青のスーツ姿。「チームカラーへの愛は、誰にも負けない」と話して、拍手を浴びた。日ごろは寡黙な大橋四段が、この日はニコニコ。サイン会でも、大橋四段はファンと会話しながら、丁寧に「青の絆」と揮毫(きごう)していた。

オーダー決めも妙味の一つ

 団体戦では、誰を大将、副将、三将に起用するかというオーダー決めも妙味の一つ。オーダーは試合の都度、変更可能なルールとなっていて、1回戦では4チーム中3チームが、大将格の棋士を大将戦以外に配置する趣向をこらした。緑チームは糸谷八段を副将、白チームは山崎八段を三将、橙チームは菅井王位を副将に起用した。

 1回戦の緑チーム対白チームは、まず、白チームの山崎八段が勝ち名乗り。白チームの伊奈祐介六段(42)と対戦した緑チームの糸谷八段が「負けました」と投了すると、山崎八段が「やったー!」と両手を挙げ、バンザイをして喜んだ。兄弟子の山崎八段が、仲が良い弟弟子の糸谷八段が負けてバンザイする場面は珍しい。「伊奈さんが、相手チームのエースに勝ってくれたので、うれしくて」と山崎八段は喜びに満ちていた。

 いよいよ、2回戦を勝ち残った白チームと黄チームが、3回戦(決勝)に臨んだ。井上九段が「正々堂々と行きましょう。きっと良い勝負ですよ」と提案し、両チームとも段位順のオーダーで激突した。

 大将戦は、白チームの山崎八段vs黄チームの稲葉八段。今期NHK杯の決勝戦の再現だ。自ら振り駒をした(これも珍しい風景)山崎八段は、自分が後手番と決まると、チームの仲間に「後(ご)、先(せん)、後(ご)で」と声を掛けた。「大将戦は白チームが後手になったので、自動的に、副将戦は白チームが先手番、三将戦は白チームが後手番に決まった」という意味。団体戦ならではの仲間との連帯を、記者は感じた。

 ほっぺたを膨らませ、気合十分だった山崎八段だが、最初に投了に追い込まれ、大きな声で「負けました」。団体戦では、まだ指している仲間の士気が下がらないように、負けたことが分からないように静かに投了するケースも多いが、まっすぐな山崎八段らしい。だが、三将戦で星野良生四段(29)が、副将戦で伊奈六段が勝って、優勝は白チーム。大将を仲間2人が助けた。

「新鮮な一日」「優勝って気持ちいい」

 表彰式では、優勝チームに日本酒(大吟醸)が贈られた。山崎八段が「自分が負けて、優勝出来るとは……。(お酒が好きな)伊奈さんの優勝への執念が大きかった。伊奈さんが、すごい、やる気で、僕らがパワーをもらえました。団体戦は、緊張感がすごくあって、いつも以上の力が出せた。新鮮な一日でした」と語った。伊奈六段も「僕は、山崎さんと(プロ棋士になったのが)同期。山崎さんは優勝を何回もされていますが、僕は棋士になって初優勝。優勝って、こんなに気持ち良いものなんだな、って思いました。優勝して、賞品の大吟醸をいただいて、本当に嬉(うれ)しい。また、次回があったら、同じメンバーで参加したい」と話した。星野四段も「今日は、いい緊張感で指せていたんだ、と思います。公式戦も、(今回の)団体戦のつもりで頑張ろう、と思いました。次も、やれたらな、と思います」と述べた。

 自らは3連勝と奮戦したが、黄チームとしては準優勝となった稲葉八段は「NHK杯の借りを(山崎八段に勝って)返したのに、(山崎八段の)チームに優勝されて、腑(ふ)に落ちないところもあります」とスピーチして、会場を沸かせていた。(佐藤圭司)

トーナメント表の見方

<1>1回戦「緑チームvs白チーム」

大将戦 ×竹内四段vs星野四段○

副将戦 ×糸谷八段vs伊奈六段○

三将戦 ×中村六段vs山崎八段○

<2>1回戦「黄チームvs橙チーム」

大将戦 ○稲葉八段vs安用寺六段×

副将戦 ×伊藤七段vs菅井王位○

三将戦 ○村田六段vs阪口五段×

<3>2回戦「青チームvs白チーム」

大将戦 ×平藤七段vs山崎八段○

副将戦 ○大橋四段vs伊奈六段×

三将戦 ×宮本五段vs星野四段○

<4>2回戦「黄チームvs赤チーム」

大将戦 ○村田六段vs畠山七段×

副将戦 ○稲葉八段vs今泉四段×

三将戦 ×伊藤七段vs西川六段○

<5>決勝戦「白チームvs黄チーム」

大将戦 ×山崎八段vs稲葉八段○

副将戦 ○伊奈六段vs伊藤七段×

三将戦 ○星野四段vs村田六段×

参加18棋士の顔ぶれとチーム分け(冒頭の色はチーム名)

【橙(だいだい)】菅井竜也(たつや)王位(25)・安用寺(あんようじ)孝功(たかのり)六段(43)・阪口悟五段(39)

【緑】糸谷(いとだに)哲郎(てつろう)八段(29)・中村亮介六段(32)・竹内雄悟四段(30)

【白】山崎隆之八段(37)・伊奈祐介六段(42)・星野良生(よしたか)四段(29)

【黄】稲葉陽(あきら)八段(29)・伊藤博文七段(58)・村田顕弘(あきひろ)六段(31)

【赤】畠山鎮(まもる)七段(48)・西川和宏六段(31)・今泉健司四段(44)

【青】平藤(ひらふじ)眞吾七段(54)・宮本広志五段(32)・大橋貴洸(たかひろ)四段(25)