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石川俊男・日本摂食障害学会前理事長に聞く

 極端に食事を制限したり、逆に食べ続けたりする「摂食障害」。国内にどれぐらいの患者がいるのか、はっきりした実態は分かっていませんが、増加傾向にあるとの指摘もあります。摂食障害とは、どんな病気なのでしょうか。長年、患者の治療に携わってきた、国立国際医療研究センター国府台病院(千葉)心療内科の元部長、石川俊男医師に聞きました。

 摂食障害は、食事を制限してどんどんやせていく「拒食症」と、短時間に大量に食べたうえで吐いたり、下剤を使ったりする「過食症」の大きく二つに分かれます。拒食症と過食症を行ったり来たりする場合もあるそうです。

 「どちらにしても、体重への過度なこだわりが背景にある」と石川さんは指摘します。「やせていることが美しい」という価値観から始まっていることが多く、若い女性に多くみられます。しかし、男性や小学校高学年、高齢者でも発症するケースはあるそうです。「低年齢化と高齢化の両方が、最近の傾向としてあげられます」と言います。

 1キロ、また1キロとやせていく。体重は数字に表れるだけに達成感も得やすい。そのうち目標を超えてもやめずにやせ続ける――。ダイエットの延長線上に、拒食症がある場合は多いそうです。

 患者数は厚生労働省研究班の調査で、約2万4500人という推計があります。ただ、これはあくまで受診した患者の推計で、受診まで至っていない患者が多くいる可能性があります。実態はよく分かっていないのが実情です。

完璧主義・低い自己評価・・・患者の特徴

 患者にはどんな特徴があるのでしょうか。比較的、多くみられる特徴を、石川さんにあげてもらいました。

 強い不安や強迫観念があり、完璧主義、低い自己評価……。体重への強いこだわりをベースに、さまざまな要因がからみあって発症するとみられています。石川さんの経験では、両親が不仲で、家庭内で強い緊張関係をみてきた子どもも多いとのこと。「単なる食行動異常」と単純に片付けて済む問題ではないことが分かります。

 昨年、世界選手権の日本代表に選ばれた経験もある、元マラソン選手の女性が窃盗の疑いで逮捕されました。女性は万引きを繰り返していたとされます。現役時代の厳しい体重制限で摂食障害になり、引退後も症状は続いていたそうです。万引きも摂食障害の患者に多くみられるとされ、石川さんによると、「過食嘔吐(おうと)」と関係するそうです。

 「『衝動的な行動』が、過食嘔吐の人の特徴のひとつです。過食嘔吐そのものが衝動的な行動。ふつうはそんなに食べられないところを、限界を超えて食べ続ける。その衝動性が、万引きという形であらわれることがあります。店頭で食べ物が並んでいると、周りの目を気にせずに盗んでいく。人目を忍んで、という万引きとは少し違うイメージです」

 こうした患者も、社会性が身についてきて、落ち着いてくれば、万引きをしなくなるそうです。「だから逮捕すれば治る、ということではなく、治療が必要なのです。治療を経て、少しずつ落ち着いていくというところから、衝動的な行動、反社会的な行動からも解放されていく」と石川さんは説明します。

治療のゴールは自立した生活

 では、どんな治療があるのでしょうか。

 うつ病を併発している場合は抗うつ薬を使うなどしますが、摂食障害に対する薬があるわけではありません。

 栄養がとれず、体重が極端に落ちてしまっている場合、腎不全や低血糖、不整脈などを招き、命を落とす危険性もあります。このため、入院治療が必要になる場合も多いそうです。入院して身体面の治療をしたうえで、さらに背景にある心理的な問題と向きあうことが必要になります。医師らとの面談などを通し、体重への過度なこだわりなどの「考え方のくせ」を修正する「認知行動療法」や、栄養指導などを受けることになります。

 摂食障害は、ストレスに対する反応が「食の異常行動」という形で出現している、と考えられます。最終的なゴールは「さまざまなストレスを、食の異常行動でコントロールしようとするのではなく、もっと健康的な形でコントロールできるようになり、自立した生活を営めるようになること」(石川さん)なのだそうです。

 摂食障害がなくなっても、食事をするときに緊張感が残る人は少なくないそうです。こうした緊張感もとれて、自然に自分が食べている状態。そこに至るには「必然的に長期戦の治療になります。焦りは禁物です」と石川さんは強調します。

「家族だけで受診」も選択肢

 回復には、家族の役割はとても大きいと言います。ただ、頑張りすぎれば共倒れになりかねません。「熱くなりすぎず、でもあきらめずに」。石川さんは、家族によくこう助言します。よくなったり、悪くなったりを繰り返しながら、ゆっくりと回復に向かう。そんなケースが多いそうです。

 問題は、そもそも本人が摂食障害と認めず、家族が説得しても病院の受診を拒むケースが多いこと。しかし、摂食障害は、最悪の場合は命にかかわります。「場合によっては、家族だけでも医療機関や相談機関を訪れることも考えてほしい」と石川さんは話します。家族と医療機関のスタッフがうまく連携し、本人を支えていく体制がとれれば、治療の必要性を理解し、前向きに取り組むようになるケースもあるといいます。

 宮城(東北大学病院)、千葉(国立国際医療研究センター国府台病院)、静岡(浜松医科大学病院)、福岡(九州大学病院)には、「摂食障害治療支援センター」が設置されていて、患者の相談にも応じています。このほか、摂食障害に対応できる医療機関の情報など、相談は各都道府県の精神保健福祉センター(http://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/mhcenter.html別ウインドウで開きます)でもできるそうです。

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いしかわ としお 1950年生まれ。75年東北大学医学部卒。2016年3月まで国立国際医療研究センター国府台病院心療内科部長。日本摂食障害学会前理事長。

<アピタル:やせたい私~摂食障害のいま>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/yasetai/(武田耕太)