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 三重県松阪市のグルメと言えば、松阪牛。でも、地元の人々にとっては「鶏」の焼き肉こそがソウルフードなのだそう。転勤で三重を離れることになった記者が、3日連続で食べ歩きを楽しみました。(小川尭洋)

みそダレ魅了 老舗の味

最初に訪れたのは、「鶏焼き肉店の元祖」として知られる老舗の「前島食堂」だ。ランチタイムの店はほぼ満席で、香ばしい煙が広がっていた。

 「柔らかい若鶏も人気ですが、雌鶏(ひね鶏)も嚙(か)み応えがあってジューシーですよ」。2代目店主の前島弘子さん(64)がコンロの七輪で焼きながら、説明してくれた。焼き鳥とは違い、串を通さず、みそダレをつけるのが特徴だ。

 ひね鶏とは、卵を産めなくなった雌鶏のこと。松阪市の鶏卵農家や家庭では、こうした鶏をさばいて、食べる習慣があったとされる。

 前島食堂の先代が店を開いたのは今から51年前。弘子さんいわく、先代は戦前、養鶏用の飼料を売っていた時期もあり、ひね鶏を焼いて食べていた取引先の鶏卵農家からヒントを得て鶏焼き肉を始めた可能性があるという。

 ただ、地元でいつごろから食べられていたのかは、よく分かっていない。「まあ、おいしければ、何でもええやない」と弘子さん。

 まろやかで香ばしいみその味が柔らかい鶏肉とマッチし、ご飯が進む。

 後日、市観光交流課に聞くと、担当者は「小さいころに食べたと話す戦前生まれのお年寄りもいますが、はっきりしません」と言う。

 いずれにせよ、前島食堂が人気を博したことで、鶏焼き肉店が広がったのは確かなようだ。現在は市内で30店舗ほどが営業しているという。

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《前島食堂》 三重県松阪市大河内町612の1

鶏肉や白菜が入った白みそのスープ(税別450円)も人気。午前10時半~午後6時半。金曜定休。

電話0598・36・0057

「牛」に負けぬ観光資源

 松阪牛に比べれば地味な「鶏焼き肉」の知名度アップに一役買っているのが、NPO法人「Do it! 松阪鶏焼き肉隊」だ。

 代表の森下桂子さん(37)が、百貨店も映画館もつぶれて寂れていく地元を心配し、8年前に高校の同級生らと結成した。「当たり前に食べていた鶏焼き肉が、観光資源になるなんて思わなかった」が、あえて「鶏」を売り込むのは面白いのでは、と考えた。20~40代のメンバー15人ほどが県内外のイベントに屋台を出したり、市内の鶏焼き肉店のマップを作ったりしている。全国のご当地グルメの祭典「B―1グランプリ」では、9、10位と2年連続で入賞したこともある。

 そんな森下さんたちと開店3年目の「のぼやん」に向かった。2日連続の鶏焼き肉ランチだが、まだまだ飽きない。毎週のように食べるという森下さんも「食べれば食べるほどクセになっちゃうんですよね」。みそダレは酒やみりんが多く入っているためか、前島食堂よりもややさっぱりとした印象だ。

 店主の小柳昇さん(50)は元々、市郊外の焼き鳥店で雇われ店長だった。だが、鶏焼き肉隊の活動に刺激を受け、「鶏焼き肉の店を持って、街を盛り上げたい」と2016年末、空き店舗が多かった松阪駅前に出店した。最近は常連客も増え始め、県外からのお客さんも。「鶏焼き肉は私の人生と街を変えてくれました。牛だけじゃない松阪を知ってもらえれば」

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《のぼやん》 三重県松阪市日野町17 ベルタウン1階

鶏雑炊も人気。近鉄松阪駅から徒歩約4分。午前11時~午後2時と午後5~10時。日曜定休。

電話0598・21・7308

ブランド守る認定制度

 三重を離れる最終日の夜。先輩の勧めで向かったのは「おそ松」。気づけば背広には、前日のみそダレのにおいが染みついていた。心なしか、胃も重たい。やはり3日連続はきつかったか。

 恐る恐る1皿だけ注文すると、あれ、肉にあのみそダレがかかっていない。「先にみそをつけると、すぐ焦げるからウチは後づけのスタイル」と店主の木村悦子さん(70)。肉を焼いてから、小皿でみそをつける。みその量を調整できるため、あっさりした味にもできる。くどく感じずに完食でき、追加で手羽先も注文してしまった。

 「松阪鶏焼き肉」の店は全国各地に続々と誕生している。ただ、調理法や味つけがバラバラで、鶏焼き肉隊は「ブランドイメージの低下につながる」と懸念。3年前に「松阪鶏焼き肉」を提供する店舗の認定制度をつくった。松阪で研修を受け、指定のタレを使うことなどが必須条件だ。これまでに東京や大阪で3店舗認定した。森下さんは「アンテナショップのような形で、県外でも松阪鶏焼き肉の魅力を発信してもらえれば」と期待する。

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《おそ松》三重県松阪市駅部田町151の13

若鶏のほか、皮や軟骨など計9種類の網焼き(税込み各500円)も。午後5~11時、火曜定休。

電話0598・26・7607