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内科医・鈴木眞理さんに聞く

 内科医の鈴木眞理さん(政策研究院大保健管理センター教授)は、1980年代から摂食障害の治療と研究に関わり、日本摂食障害協会の立ち上げにも尽力してきました。長年、多くの患者と接してきた経験から、摂食障害を「人生の不安の病気」と位置づけています。鈴木さんは「摂食障害は若い患者が多く、精神疾患としては死亡率も高い、深刻な病気です。一線で活躍するアスリートの摂食障害も次々と明るみに出ており、もっと多くの方に関心を持っていただきたい」と訴えています。

 現在、推計される国内患者数は約2万4500人。病院にかかっていない潜在患者数も含めれば、全体として患者数は増加傾向にあるとみられています。入院治療を受けた人を追跡した研究では、死亡率11%だったとする研究報告もあり、「精神疾患のなかでは最も死亡率が高い」と鈴木さんは指摘します。懸念しているのは、20~40代女性の中に、「やせ(BMI18.5未満)」の人が増え続けていること。国は適正体重の人を増やし、やせや肥満の人を減らそうと呼びかけていますが、「テレビや雑誌に登場するモデルも俳優も、非常に細い女性たちばかり。日本はやせに慣れすぎている社会ではないでしょうか」と指摘しています。

 摂食障害では、当事者が病気を治したがらない場合があり、医師が診察を敬遠する原因になっています。なぜでしょうか。鈴木さんによると、当事者にとって、やせていることは「一種の麻薬」。「身体的にはつらいけど、心はつらくない」と言うのだそうです。

「28キロより増やしません」

 鈴木さんが診察したある女性は、「いじめに遭ったことを忘れていられるから、28キロより体重を増やしません」と明言したそうです。28キロより体重が少ないときは毎日、「何をどう食べて、どう体重を減らすか」ということで頭の中がいっぱいになるので、いじめの記憶や、これからどう生きていくかという不安から解放されると話しました。

 また、学校成績をプレッシャーに感じていた女子高校生は、「22キロよりやせると、学校に行かなくてすむし、親も勉強しなさいと言わなくなるから、ぜったいこれ以上は太りません」と言いました。入院治療などで少し体重が増え、家族が「そろそろ学校に行く?」「勉強しないと後で困るよ」といったことを言い始めると、とたんにまた痩せ始めたそうです。

 「摂食障害は、人生の不安の病気。この女の子の場合は、本当は勉強が好きではないのに親や学校からプレッシャーをかけられていました。そうした本人の不安を取り除いてあげない限りは、よくならない」と鈴木さんは解説します。同時に家族も病気を理解し、本人の気持ちにより添って、自らの行動や考え方を変えていかなければ、病気は快方に向かいません。

 ところが、積極的に摂食障害を診る医師がなかなか増えず、まだ多くの患者が適切な治療を受けられていません。「30年たっても専門医は増えず、専門の診療機関もできず、個々の患者にあわせた治療ができていない。食べたいと思っても食べられないことに悩んでいる拒食症の方に、医師が『食べなさい』と言ったり、吐くことをやめたいのにやめられない過食の人に『吐かないようにしなさい』と言ったり。食べた方がいいとか、吐くのは良くないとか、頭で分かっていてもできないところが病気なのに、現場の医師が適切に対応できていないのが現実」と話します。

何を不安に感じてる? 治療の糸口

 治療では、患者本人は何を不安ととらえているのか、本音を打ち明けてもらうことが糸口となります。面接に時間をかける必要がありますが、鈴木さんは「現在の診療報酬制度では、摂食障害の患者が訪れやすい小児科、内科、産婦人科の医師による面接は、何時間かけたとしても80点(初診は110点)しか支払われず、小規模な病院の医師を尻込みさせている」と改善の必要を訴えます。

 いま、万引きをきっかけに元アスリートの摂食障害の苦しみが明らかになったり、フィギュアスケートの選手が摂食障害を引退の理由として語ったりするなど、摂食障害への社会の注目は高まりつつあります。この流れをとらえて、この病気の深刻さを理解する人を増やし、一緒に国を動かしたり、腰が引けている医師に働きかけたりしていきたいと鈴木さんは考えています。

6月には世界摂食障害アクションデー

 国内では2010年に、日本摂食障害学会に所属する医師の有志が呼びかけ、摂食障害の専門診療機関の設立を求める署名2万4千筆が集まりました。そして15年、国立精神・神経医療研究センターのなかに摂食障害全国基幹センターができました。国は、基幹センターのもとに全国10カ所の摂食障害治療支援センターをつくり、患者や家族らの支援、治療研究や開発、支援体制のモデル開発などを進めていく計画。ただ、18年3月現在では、宮城・千葉・静岡・福岡の4県で支援センターができたのにとどまっています。

 日本摂食障害協会は16年に立ち上がりました。都道府県がつくる摂食障害治療支援センターの講習会などを企画や運営面で手伝うほか、毎年6月の世界摂食障害アクションデーに合わせて独自のイベントを開催し、一般向け勉強会や、栄養士、養護教員ら専門家向けセミナーも開いています。また摂食障害に悩む当事者からのメール相談も、無料で受けています。

 協会が美容会社「ミュゼプラチナム」と共同でおこなったアンケートからは、「摂食障害はダイエットが原因である」「過食は意思の力で止められる」といった、いまの医学での統一見解とはずれたイメージを持っている人が多いことが分かりました。

 「まずは、摂食障害への誤解を取り除くことに力を入れていく必要がある」と鈴木さんは話します。

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すずき まり 1954年生まれ。長崎大学医学部卒。米ソーク研究所、東京女子医大などを経て政策研究院大保健管理センター教授。ストレスと脳内ホルモンへの関心から、摂食障害の治療と研究を始める。日本摂食障害協会で理事を勤める傍ら、患者の家族会もつくり、支援を続けている。

<アピタル:やせたい私~摂食障害のいま>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/yasetai/(冨岡史穂)