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文化人類学者・磯野真穂さんに聞く(上)

 111時間にわたるインタビューで、拒食や過食の女性たちの思いに迫った「なぜふつうに食べられないのか」(春秋社)の著者、磯野真穂さんは、文化人類学の視点で「摂食障害」を見つめています。「やせ」にこだわってしまうことを個人の問題だと考えずに、やせを礼賛する社会や文化背景をふまえて捉えるべきではと訴えます。

5人に1人がやせすぎ

――日本の女性の「やせ」についてどうお考えですか。

 摂食障害は正確な統計がないので数が把握できていませんが、日本の体形の「普通」は普通ではないと思います。20代の女性の5人に1人が、BMI(体重÷身長<メートル>の2乗で算出する体格指数)でやせすぎ(18・5未満)に分類されます。

 1980年代のアイドルと今のアイドルを比較しても、明らかに今の方がやせています。「やせ」は競争です。みんなと同じところまでやせたら「やせ」ではなくなり、さらにやせる必要が出てきてしまう。でも、人の身体は多様で、みんながBMI18・5を維持するなんてできません。

 女性が容姿を重視される「見られる性」だという事実は外せません。だから自分の体や食事に目が向きやすくなります。

「ギルトフリー食品」・病みアカ 変わる病態

――インターネットとの関わりはあるのでしょうか。

 摂食障害についても、インターネットの広がりで、病態が大きく変わったように思います。

 カロリーオフやヘルシーさをうたう「ギルトフリー食品」って知っていますか。食べても罪悪感の少ないお菓子などをそう呼びます。初めて知った時は驚きました。食べることは、そもそも自分に「許す/許さない」ということではないと思うのですが。

――SNS上では、摂食障害の「病(や)みアカ」(摂食障害当事者だと明かしたアカウント)がありますね

 SNSでは承認欲求が喚起されます。そして、摂食障害の様子を見ることができる。そのため「病みアカ」同士のつながりで、「体重○キロになった」「これで吐けた」と報告し、励まし合うとか、よけい摂食障害から抜け出せない例もありそうです。

 そもそもネットで何でも買って取り寄せられるし、家から出ない状態も作れます。やせ競争がネットの中でも起きているのだと思います。

 でも、そこに「誰かとつながっていたい」という苦しさもあるわけですよね。SNSで愚痴を言って発散したり、「いいね」がついて一時的な癒やしが得られたり。その出会いで救われる人もいます。一概に悪いと言えませんよね。

過剰なダイエット、日本は「個人の問題」に

――海外の雑誌では「やせすぎモデルを使わない」という宣言がありましたね

 日本では議論になりませんよね。過剰な「やせ」を個人の問題としてとらえ、医学・心理学の治療の対象としてしか考えられていないからだと思います。「ダイエットする子の全員が摂食障害になるわけではない」から、「適度にダイエットできないその子に問題がある」という考え方です。だから「やせすぎモデルを使わない」「やせ礼賛社会がおかしい」という考え方にはならない。

 でも、過労死やいじめの自殺だって、被害を受けたみんながそうなるわけではありません。「個人の問題だ」とほっといていいのでしょうか。

 いじめやパワハラ・過労は、圧力をかけている人が明確な一方で、摂食障害は「やせなきゃ」というプレッシャーを与えているのがふわっとした社会の空気です。

 分かりづらくはありますが、振り返ってみれば、あこがれのアニメのキャラやアイドルがやせている、売っている服が小さくて着られない、親がダイエットをしている、重層的に「やせた方がいい」というメッセージがあふれています。

――なぜ日本ではそんなメッセージがあふれるのでしょうか

 「未成熟」をめでる日本の文化背景があると思います。欧米では成熟して胸やおしりの出た女性がセクシーとされますが、日本ではそうではないですよね。じゅうぶん細いアニメのキャラクターが「ダイエットしなきゃ」と言う文化です。

 でも、そりゃあ「やせたい」と思いますよね。やせている方が得が多い社会構造ですから。「やせるべき」という空気から逃れられるし、自己管理ができているとみんなからほめられますし。

 女性のやせすぎ問題を何とかしたいのであれば、社会の「やせ」へのプレッシャーを減らし、子どもが読む雑誌にはダイエット特集を載せないといった配慮が必要ではないでしょうか。

 ネットで探せばダイエット情報が見つかるとしても、それでも「成長期にダイエットなんて必要ない」「今の日本の『やせ』は過剰だ」と考えられる社会にしていかないといけないと思います。

   ◇

いその・まほ 文化人類学者。留学したオレゴン州立大で専攻を生理学から文化人類学に変更。2001年、シンガポールで摂食障害の調査を行う。15年、摂食障害の当事者にインタビューを重ねた『なぜふつうに食べられないのか―拒食と過食の文化人類学』(春秋社)を出版。16年から2年間にわたり、「一億総やせたい社会を見つめる文化人類学ワークショップ・からだのシューレ」を開催した。昨年6月、『医療者が語る答えなき世界―「いのちの守り人」の人類学』(ちくま新書)を出版。

磯野真穂さんのインタビュー、後半は4月9日に公開します。

<アピタル:やせたい私~摂食障害のいま>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/yasetai/(聞き手・水野梓)