拡大する写真・図版 州議会議事堂の外で抗議活動を展開する公立学校の教員ら。学校が休みになり、大勢の高校生や保護者も参加した=オクラホマシティー、金成隆一撮影

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 雨漏りする教室。1990年代の教科書。副業をしないと暮らせない教員。米国で今、学校の惨状に抗議する活動が広がっている。10年前の金融危機で地方財政が傷み、公教育がしわ寄せを受けたためだ。(米オクラホマシティー=金成隆一)

 南部オクラホマ州の州都で4月、大勢の教員による抗議活動が起きた。

 高校の英語教諭、ロドニー・ウェバリングさん(37)。勤務校の年間予算は過去3年で25万5千ドル(1ドル=約109円)減った。「予算を獲得できたら雨漏り、床の傾斜の順で校舎を修繕したい」。雨の日は生徒がぬれないよう机の配置を変えている。小学生の娘の教材を見ると地図に「ソ連」がある。「小学校の先生も大変だ」と納得した。

 年収3万4千ドル。3人家族を養えず土日に計16時間、大型小売店で働く。最近休んだのは復活祭(4月1日)だけ。食料品店やパン屋で働く同僚もいる。配車サービス「ウーバー」の運転手は時間に融通が利くため人気の副業という。

 州議会議事堂での抗議活動は多くが女性だった。教員歴40年のキャシー・ウィリアムスさんが解説してくれた。「給料が低すぎて男性は家庭を養えない。妻が教員になって家計を助けている」。全米教育統計センターによると、公立校の教諭に占める男性の割合は80年代後半に約3割いたが、今は約23%まで下がった。

 小学校で算数を教えるティファニー・クリステンさん(52)は「竜巻の警戒地域なのにシェルターがない。警報が鳴ると、もう祈るしかありません」。10年間昇給なし。土曜日は食料品店の試食コーナーで働いてきた。

 家賃を節約するため母と同居中だ。「幼児教育学で学位を取り、就職後も技能を上げた。それでも同じ給料。家賃500ドル以内の部屋を、と神に祈り続けたら、1週間前に450ドルの部屋が見つかった。せめて自分の家を持ちたい。わがままじゃないでしょ?」

 コピー用紙、鉛筆、クレヨン、マーカー、ノートなどを自腹で購入。五感で学んでほしいと、数を数えるのに使う積み木とブロックも通販で買った。

 自身の境遇について、少し考えて答えた。「下層とは思わない。まあ、下位中産階級(アンダー・ミドルクラス)には踏みとどまっているかな」

怒る生徒、抗議活動へ

 抗議活動には生徒や保護者の姿も目立つ。一般的に米国で教科書は、新年度に全生徒に配布される日本と異なり、学校の備品。それが古すぎると、高校2年のノア・スイートさん(17)は怒っていた。「ビル・クリントンが大統領で、(2001年の)同時多発テロは起きていない。冥王星は惑星です」。生まれる前の90年代の教科書だ。

 米地図をプラカードに貼り付け、オクラホマ州にバツをつけて「より良い教育のためにどこに行けばいい?」とアピールしていたのは、高校3年のソフィア・ファーガソンさん(17)と4年ケイティ・パルビスさん(18)。

 報道でオクラホマ州の教員給与が全米50州で最下位に近いと聞いて驚いた。パルビスさんが訴える。「学校に人数分の教科書がないから試験前も自宅に持ち帰れない。スマホで必要なページを撮影し、それを拡大して勉強しています」

 大学を目指す「特進コース」在籍で、この境遇だ。ファーガソンさんがつぶやく。「コロンビア生まれの祖母は、よりよい教育機会を求めて移住してきたはずなのになあ」

 教員になる気はあるかと聞いた。ファーガソンさんは「教員は若者があこがれる職業であるべきだと思うけど、教員に報いないオクラホマでなりたいとは思えない」。パルビスさんも深くうなずいた。

10年前の金融危機、いまも地方財政に影

 抗議活動はウェストバージニア州で2月に始まり、オクラホマ、ケンタッキー、アリゾナなどへ飛び火した。教員給与が全米平均を大きく下回る州が目立つ。背景には、08年の金融危機から立ち直れていないことがある。

 米国の公教育は大半が州政府と地元自治体の予算によっているが、金融危機で税収が落ち込み、学校予算が削られた。15年時点の生徒1人当たり州予算(インフレ調整済み)は、29州が08年水準に戻っていない。アリゾナ州の落ち込みは36%減と最大で、オクラホマ州も15%減。両州は所得税、法人税の減税を進め、財政をさらに悪化させていた。

 米メディアによると、オクラホマ州では辞める教員が後を絶たず、緊急の教員免許発行数が急増。約2割の学校は週4日制に移行した。アリゾナ州ではフィリピンからの出稼ぎ教員が教えている。

 ただ、抗議活動は各地で待遇改善や予算増など一定の成果につながった。AP通信によると4月の世論調査では、米国民の78%が教員の給料は「少なすぎる」と答え、50%が公教育改善のための増税を支持した。

 この流れを受け、民主党は5月、今後10年間の教員待遇改善に500億ドルを投入するなどの計画を発表した。11月の中間選挙に向け、「小さな政府」を志向し予算増に消極的な共和党との違いを示す狙いだ。