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 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は27日午前、北朝鮮の指導者として初めて韓国を訪れ、文在寅(ムンジェイン)大統領と会談しました。午後もさらに会談を続け、夕刻には合意文が発表される予定です。3回目となる南北会談の模様をタイムラインで追い、ポイントを韓国と北朝鮮に詳しい桜井泉記者が解説します。

第1回会談を終えて

 南北首脳会談を現地で取材している板門店共同取材団によると、午前の会談を終えた北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領はともに、会談に満足した様子だったという。また、金氏は文氏に対し、訪朝を要請した模様だ。

 両氏のやりとりは以下の通り。

     ◇

 金正恩氏「飛行機で来れば一番楽だ。道路は不便だ。いらっしゃれば、空港で接遇し、うまくいくと思う」

 文在寅氏「その程度なら(合意文に)盛り込んで、近づけば協議する手もあるでしょう」

 金正恩氏「ここで次の計画まで全部する必要はないでしょう」

 文在寅氏「今日、良い議論がたくさんできて、南北の国民に、世界の人々に贈り物になると思う」

 金正恩氏「期待していた人々にとって、氷山の一角にすぎないかもしれないが、今日の出会いと協議が発表されれば、期待していた人々に少しでも満足を与えられるのではないか」

北朝鮮メディア、報道控えめ

 朝鮮通信によると、北朝鮮国営ラジオの朝鮮中央放送と平壌放送、国営通信社の朝鮮中央通信は正午(日本時間の午後0時半)現在、南北首脳会談について報じていない。

 朝鮮中央放送と平壌放送は正午に、金正恩氏が早朝に平壌を出発したことを報じたが、その後はロシアのメディアが金氏の著作を報じたことや、国内経済など通常のニュースを伝えたという。

【解説】自国の遅れ認めた正恩氏

 韓国大統領府が発表した午前中の金正恩氏と文在寅氏の会話で、2人は「民族」を強調し、意気投合している様子が明らかになりました。金氏は「我々にかかわる問題について、文大統領とひざを交えて解決するために来た」といい、文大統領が「韓半島の問題はわれわれが主人だ」と応じています。

 文氏は韓国の左派、進歩派です。彼らは「民族」を強調し、ナショナリズムが強い。南北が同じ民族であることを強調し、北朝鮮との共存を主張します。

 一方、朴槿恵前大統領に代表される保守派もナショナリズムが強いが、それは韓国への忠誠を誓うという意味合い。北朝鮮に対しては厳しい見方につながっています。

 文氏は、朝鮮半島の問題は自分たちで決めるというのが持論です。金氏にはっきりと伝えたことは、進歩派と北朝鮮に通じる部分があると改めて感じさせる象徴的な場面でした。

 一方で、文氏が北朝鮮訪問に意欲を見せ、金氏が「正直心配なのが我々の交通だ。不十分で不便をかけると思う。平昌高速鉄道が良いそうだ」と認めたのも興味深いです。

 韓国はここ15年ほどで高速鉄道や地下鉄、通勤列車が充実し、鉄道の時代を迎えています。一方、北朝鮮は鉄道網の整備が完全に遅れ、高速鉄道など夢のまた夢です。

 プライドが高いと言われる北朝鮮の人たちですが、金氏は自国の発展の遅れを率直に認めました。成果を重視し、何か失敗があった場合はこれを認め、打開策を探して次につなげる。そんな実利を重視するタイプだと専門家は指摘します。そうした一面が現れたのかもしれません。

共同宣言文に向け作業(14:30)

 韓国大統領府は、午前中にあった南北首脳会談を受け、共同宣言文を作成する実務協議をしていると発表した。会談では、朝鮮半島の非核化と平和定着の恒久化、南北関係の今後の方向について意見交換をしたという。合意に至れば、両首脳が署名式を行い、共同発表する。

 また、金正恩氏の妻の李雪主(リソルチュ)氏は午後6時15分ごろ板門店に入り、韓国側の「平和の家」で、金夫妻と韓国の文在寅大統領夫妻らが出席する夕食会に参加するという。

夕食会の参加者発表(15:30)

 韓国大統領府は、南北首脳会談終了後の同日午後6時半に板門店の「平和の家」で開く夕食会について、参加者を発表した。

 韓国側は文在寅(ムンジェイン)大統領夫妻のほか、国会議員や経済・文化人ら34人、北朝鮮側は金正恩(キムジョンウン)労働党委員長と妻の李雪主(リソルチュ)氏ら36人が参加する。

 韓国側の参加者には4月に平壌で行われた韓国芸術団に参加した歌手のチョー・ヨンピルさん、北朝鮮側の参加者には2月の平昌冬季五輪で韓国公演を行った三池淵(サムジヨン)管弦楽の玄松月(ヒョンソンウォル)団長が加わる。

朝鮮中央テレビが報道(15:39)

 北朝鮮の朝鮮中央テレビは27日午後3時39分(現地時間3時9分)から男性アナウンサーが登場し、朝鮮中央通信が配信した「敬愛する最高領導者 金正恩同志におかれては板門店南側地域で開かれる歴史的北南首脳会談のために平壌を出発された」という記事を読み上げた。

 他のニュースは報じず、番組は終了した。

両首脳が記念植樹(16:30)

 文在寅氏と金正恩氏が会談を記念し、マツの木を植樹した。植えられたのは、朝鮮戦争の停戦協定が結ばれた1953年産のマツで、韓国の大田市から移植されたという。金氏は「マツは一年中、緑の葉をつけている。強さを象徴するものだ」と話した。

 この植樹までは、それぞれ共同宣言文の作成に向けた実務作業をしていた。再会した両氏は笑みを浮かべ、すっかり打ち解けた様子を見せた。

 マツの前には2盛りの土とじょうろに入った水が用意された。金氏は済州島にある韓国で最も高い漢拏山の土と、ソウルを流れる漢江の水をマツにかけた。文氏は北朝鮮の最高峰・白頭山の土と平壌を流れる大同江の水をかけた。南北を代表する土と水をあわせ、統一への思いを表現した。

 続いて石碑を除幕。「平和と繁栄を植える」という文字と、2人の名前や日付が記されていた。

両首脳、2人きりで語らいの時間(16:40)

 文在寅氏と金正恩氏は植樹の記念撮影後、随行者を交えずに2人だけで語らいの時間をもった。

 まずは150メートルほど舗装された道を歩いた後、さらに50メートルほど水色の「徒歩の橋」を散歩。東側の突き当たりに設けられたウッドデッキに座り、30分以上にわたって話し込んだ。

 当初、北朝鮮側のフォトグラファー2人が近くからの撮影を止めず、韓国側のフォトグラファーらが肩をたたいて文氏、正恩氏の2人きりにするよう促す場面も見られた。

 会話の様子は映像で中継されたが、少なくとも数十メートルは離れた1台のカメラで撮影したとみられる。音声は聞こえなかった。

 文氏は背後が映されたのみで、表情はうかがえなかった。だが、何度も手ぶりを交えて何かを訴えているようにも見えた。

 金氏は時折うなずいたり笑顔を見せたりする一方、みけんにしわを寄せ、厳しい表情で文氏の顔をのぞきこむこともあった。文氏からほぼ視線をそらさず、少し前のめりになる様子も見られた。

 ともに会話に集中している様子で、机に置かれた水が入っているとみられるコップに手をつける場面は確認できなかった。

「板門店宣言」に署名(17:58)

 文在寅氏と金正恩氏が朝鮮半島の「完全な非核化」を目標とすることを盛り込んだ「板門店宣言」に署名した。2人はカメラの前で笑顔を見せて握手した後、2回にわたって抱擁した。

 建物を出た2人は、そのまま戸外の会見場へ。文氏は柔和な笑みを浮かべた。北朝鮮の指導者がカメラの前で発言し、全世界に中継されるのは極めて異例。金氏は落ち着きなく周囲を見渡した。

正恩氏の妻が姿を見せる(18:18)

 金正恩氏の妻、李雪主(リソルチュ)氏が板門店の韓国側施設「平和の家」に姿を見せた。午後6時半から予定されている夕食会に出席する。

 ひざ丈の淡いピンクのツーピースに身を包み、黒いバッグを手にした李氏は車で到着。文在寅氏の妻、金正淑(キムジョンスク)氏に出迎えられると、笑顔を見せた。李氏は自身が注目されていることに「少し恥ずかしくなった。私が何かをしたわけではないのに」と照れ笑いを見せた。

 文氏が「南北間の文化芸術交流に役割を果たしていただいたらいいですね」と語りかけると、李氏は「夫の仕事がよくなるように、隣で手伝います」と応じた。

 4人は報道陣に囲まれながら数分間談笑。笑みを浮かべて記念撮影に臨んだ。

安倍首相、南北会談を評価(18:45)

 安倍晋三首相は首相官邸で記者団の取材に応じ、「北朝鮮をめぐる諸懸案の包括的な解決に向けた前向きな動きと歓迎する」と評価した。「今回の会談を受け、そして米朝首脳会談を通じ、北朝鮮が具体的な行動を取ることを強く期待している。北朝鮮の今後の動向を注視していく」とも語った。

 首相は「拉致、核、ミサイルの包括的な解決」の必要性を強調。日本が蚊帳の外に置かれているとの指摘には「それは全くない」とし、日米韓で今後の対応は一致していると強調した。会談内容については、文在寅氏から電話で直接説明を受ける予定。

トランプ氏「時がたてばわかる!」(19:41)

 トランプ米大統領は米国時間の27日朝、「ミサイル発射と核実験による腹立たしい年月を経て、北朝鮮と韓国の歴史的な会合がいま起きている。良いことが起きているが、時がたてばわかる!」とツイートした。

 次のツイートでは「朝鮮戦争は終わりを迎える」と歓迎。「米国とすべての偉大な人々は、朝鮮半島で起きていることをとても喜ぶべきだ」とした。

夕食会で2回乾杯、冷麺も(20:00)

 韓国の聯合ニュースは、夕食会では過去に南北首脳会談を実現した韓国の元大統領、金大中(キムデジュン)氏と盧武鉉(ノムヒョン)氏の出身地で採れた魚介類やコメなどが出されたと伝えた。北朝鮮は平壌の有名レストラン「玉流館」の主席料理人を派遣し、名物の冷麺をふるまったという。

 夕食会では、まず文在寅氏が歓迎のあいさつをした後に乾杯。その後、金正恩氏が答礼を述べて再び乾杯したという。

正恩氏、北朝鮮に戻る(21:28)

 妻の李雪主氏らとともに文在寅氏との夕食会に出席していた金正恩氏は、午後9時26分に会場の建物を後にし、車に乗り込んだ。車中から手を振り続け、最後まで友好的な態度をとった。

 2分後には軍事境界線を越え、北朝鮮側に戻った。韓国での滞在時間はちょうど半日だった。

【解説】敵であって敵ではない-韓国と北朝鮮

 長い1日でした。いったい金正恩という人はどんな人なのか。世界は、独裁者の一挙手一投足を固唾(かたず)をのんで見守っていました。ですが、意外にも、表情豊かに快活にしゃべり、冗談も飛ばしました。

 韓国と北朝鮮は戦火を交わした敵国同士です。しかし、朝鮮戦争が原因となって1千万人とも言われる多くの家族が、南北に別れて暮らしています。もう2度と戦争をしてはならないというのが人々の気持ちでしょう。

 その意味では、政治的な立場を超えて、多くの韓国の人たちが今回の南北首脳会談を支持したと思います。敵であって敵ではない。その辺の感覚が、外国人である私たちには分かりにくいのかもしれません。

 「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現する」。「板門店宣言」には「朝鮮半島の非核化」がうたわれました。ですが、期限もなく具体的なことは何も書かれていません。その点は失望しました。

 しかし、去年の夏から秋にかけての一触即発の軍事的緊張はひとまず緩和されました。それは海を隔てた日本にとっても喜ぶべきことで、そのことをまずは評価すべきでしょう。

 せっかく外の世界に足を踏み出した金正恩委員長を、再び自らの世界に閉じこもらせるのは得策ではありません。彼が国際社会の空気に触れることは平和につながります。

 とはいえ、国際的な経済制裁のもとでは、韓国も北朝鮮への経済支援はできないでしょう。まずは宣言にうたわれた南北離散家族の再会や民間交流から始めたらいいのではないでしょうか。

〈桜井泉記者〉
朝日新聞オピニオン編集部記者。1984年入社、91年にソウルで1年間言葉を学ぶ。韓国の政治外交、日韓関係や韓越関係、歴史問題、在日コリアン問題の取材を続けている。97~99年、ハノイ支局長。