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 「かっこいい」と言われたら世の男性、大喜び。男は単純。「いやいや、そんなこと」と言いながら、「やっぱりそうか」と思ったりしたら、もっと単純。

 「先生、かっこいい死、お願いします」。7号室、65歳のがん末期の男性が、少年のような顔で言った。「痛くない死」、「やすらかな死」、「安楽死」、という依頼はあるが、「かっこいい」と「死」を結びつけた「かっこいい死」は初めて。どうしよう。ソファに座っていた奥さんも跳び起きた。

 「あなた、どうしたの? しっかりしてね」。「しっかりしてるから、先生に頼んでるんだ」と平静。「死んじゃうの? 生きよう」と奥さん。「自分でもわかるよ、手と足はやせて、おなかだけ大きくなって。がんばってきたよ俺なりに。でも限界だ」。「がんばった、私見てたよ」と奥さん。奥さんは昔看護師として働いていたことがある。2人暮らし。患者さんは小中学生用の自宅学習の教材を売ってきた。仕事は順調、よく売れた。時代は大きく変わり、乱立する塾に顧客を奪われた。

 「あまりかっこいい人生ではなかった。でも、死はかっこいいのがいい」。奥さん「今の顔、かっこよかった」とフォロー。「先生、頼みます」と念を押され、「あっ、はい」と答えて廊下に出た。どんな死ならかっこいいのか。みっともなくない死って何だろう。吐下血なく、痰(たん)なく、浮腫なく、てんてんと転がり回らず、長期にならず、ストンとゴールのテープを切るということか。「尊厳死」「安楽死」とは違い、「平穏死」「納得死」とも一味違ってユニークな響きのある「かっこいい死」。皆と相談せねばならぬ。患者さんが、「かっこいい死を」と堂々と口にしただけで、かっこよかった、のだけど。

 

<アピタル:野の花あったか話>

http://www.asahi.com/apital/column/nonohana/(アピタル・徳永進)

アピタル・徳永進

アピタル・徳永進(とくなが・すすむ) 野の花診療所医師

1948年鳥取市生まれ。京都大学医学部卒業。京都、大阪の病院・診療所を経て、鳥取赤十字病院の内科医に。2001年12月、鳥取市内にてホスピスケアのある有床診療所「野の花診療所」を始め、さまざまな死の形を臨床から報告。鳥取市にセミナーハウス「こぶし館」を建築し26年になる。