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 さまざまな物語を生んだ児童文学作家の話に、約280人が聴き入った。国際アンデルセン賞の作家賞に選ばれた角野栄子さん(83)が30日、山口県の下関市生涯学習プラザで講演した。作品に込める思いや執筆の思い出について語った。

 主催は市内の児童書専門店「こどもの広場」。親交のある代表の横山真佐子さん(70)が司会を務めた。作品を紹介しながら、角野さんが執筆時の思いやエピソードを振り返った。

 半世紀に及ぶ作家人生のスタートとなったデビュー作は「ルイジンニョ少年」。角野さんは「私は書くってこんなに好きだったかと。これを一生やっていこうと思った」と話した。「小さいときから死に不安と恐怖をずっと感じていた。それが書くことで少し解消された」

 落語や漫談が好きな父親から大きな影響を受けたという。「言葉にリズムがあり、演出がある。お話というのはこんなにおもしろいんだなと。父が話すのがすごく楽しくて、私の一生を潤してくれるものがそこにあった」と語った。

 下関は「第二の故郷」と話す角野さん。30年前に山口県長門市であったセミナーで、今回の講演を企画した横山さんに出会ってから、毎年のように訪れているという。「下関のかたって面白がり屋の気分がある。おいしいものもたくさんあるしね」と話していた。

違う世界の私 想像…気分晴れる

 講演前、角野さんが朝日新聞の単独インタビューに応じた。主なやり取りは次の通り。

 ――3月の受賞の一報はどちらで聞きましたか。

 「自宅で、夜の10時半くらいでした。賞が取れるとは全く思っていなかったから、誰にも選考に残っているとは言わなかった。お知らせを受けたからうれしいなと思いました」

 ――物語には、10歳から13歳くらいの少女が多く登場します。

 「面白いんです。子どもなんだけど、自分じゃ大人だと思っている。何かに出会うんじゃないかとワクワクした気持ちをもっている女の子を書いてみたい」

 ――ご自身はどんな少女だったのでしょうか。

 「5歳の時に母を亡くし、死や生についてずっと考えていました。両親にあたたかく育てられた子どもより、想像することは多かったかもしれません」

 「違う世界だったら私と違う私がいるとか。ここじゃなくて向こうに行ってみたいみたいな気持ち。好奇心と想像力を働かせると、気分が晴れやかに、生き生きとしてくるんですよね」

 ――思い入れのある本は。

 「子どものころは本があまりなかった。あっても兄弟や近所で回し読みでした。でも、中学2年でおじが初めて買ってくれた本が『ビルマの竪琴』です。あたしの本っていうのが格別なんですよね。持った紙の感覚や匂いをはっきり覚えています」

 ――これからはどんな物語を。

 「いま書いているのは、『魔女の宅急便』のサイドストーリー。キキの結婚式も書きましたが、まだ出せていません。終わってからは『トンネルの森 1945』の女の子の戦後を書きたいです」

 ――どう読んでほしいですか。

 「こう読んでほしい、ということは全く思っていない。読むことで、その人がどう受け取り、どう感じるかが思い出に残る。私の物語が残るんじゃなくて、読んだ人の物語に変化して残るというのが、物語の面白いところだと思います」(聞き手・棚橋咲月)