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 6月末で閉店する名古屋・栄の老舗百貨店「丸栄」には、東海地方の地元客になじみの深いテナントが幾つもある。百貨店が閉まれば、テナントで働く人は行き場に困ることが多い。人生をどう歩むかは人それぞれだ。本館地下に店を構えるテナント2軒を訪ね、当事者の「決断」を聞いた。

 精肉店「肉の杉本」は最高級とされるA5ランクの国産和牛のみを扱う。1962(昭和37)年に出店。杉本日左江さん(77)は店頭に半世紀以上立ち続け、今もフルタイムで働く。

 1959(昭和34)年、丸栄に入って宝石や美術品を扱った。そこに精肉店経営の吉弘さん(故人)が来て恋仲になった。結婚して退職。「杉本」の社員として売り場に立ち始めた。

 高度成長期、松阪牛を1キロ買う客が珍しくなかった。「良いものをデパートで買っていこうと、皆さんに余裕があった」。アルバイトは深夜まで箱詰めや伝票を記入し、終業後は銭湯へ。翌朝も早くから勤務についた。若者が生き生きと働く姿に触発された。2000年に名古屋駅前にJR名古屋高島屋が開業し、翌年は狂牛病問題も発生。苦戦を強いられた。05年には吉弘さんが73歳で亡くなった。

 そして昨年末、丸栄から閉店を告げられた。「品質へのこだわりは変えなかった。仕事の楽しさも厳しさも教えてもらいました」。帰宅すると仏前に向かい、吉弘さんに語りかける毎日だ。閉店日には、こう伝えたい。「今日まで頑張ってきましたよ。見守ってくれてありがとうね」。7月以降、働く予定はない。

 岐阜県川辺町に本店のある菓子店「養老軒」は、14年に出店した。名物は「ふるーつ大福」。イチゴ、栗、バナナを自家製あんと生クリームで包む。週末は1日に1200個が売れる。

 渡辺幸子社長(54)にとって、初の名古屋進出だった。毎日、作りたての大福を岐阜から運んだ。イチゴの季節が終わると、マンゴーや巨峰を包んだ大福を販売。客足は途絶えなかったのに……。「養老軒の歴史を丸栄でも刻んできた。心に穴があいたようで」。もう一度、再起を。今度は名古屋市内に別の店を出すつもりだ。